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「まもなく着陸いたします」


隣を見ると、悠さんは眠っていた。


ほんの少しだけ口元が緩んでいる。


きっとほとんど寝ていない。


今週ずっと忙しかったのに、

私が「来てほしい」と言ったら、迷わなかった。


「……悠さん」


小さく肩を揺らす。


「ん……着いた?」


「はい」


目を擦りながら、すぐ体勢を整える。


「悪い、寝てた」


悠さんは私を見て、


「朱里」


「はい」


「もつ鍋食いたい」


一瞬、意味が分からなくて。


それから、笑ってしまう。


「ふふ、美味しいお店あります」


その顔が、いつもの悠さんで。


私が気にしないように、

気を遣ってくれている。


疲れているのに。


遠いのに。


それでも、来てくれた。




家の前に立ち、インターホンを押す。


「大丈夫?」


「……はい」


母が、この人をどう見るか。


この人がどれだけ優しいか。


ちゃんと伝わって欲しい。


ドアが開く。


「おかえり」


母の目が、悠さんへ向く。


「初めまして、悠と申します」


「遠いとこ、よう来てくれたね」


「来れて良かったです」


自然な声。


無理してない。


「この子はしっかりしとるやろ?」


胸が跳ねる。


それは自慢でもあり、牽制でもある。


悠さんは、少しだけ私を見て


それから母に向き直る。


「そうですね」


一拍。


「背負ってる荷物を、渡してもらえるような存在になりたいです」


息が止まる。


そんな言い方。


強くもなく、軽くもなく。


母の目が変わる。


値踏みじゃない。


はかっている。


「……顔合わせ、ご両親はなんて?」


その質問は、試す段階の次。


私は気づく。


フェーズが変わった。


悠さんは、迷わない。


「急ぐ必要はないと言ってました」


「距離もありますし、お互い仕事もあるでしょうし」


静かに続ける。


「でも、朱里さんの親御さんなら大丈夫だと」


私を見る。


ちゃんと、見る。


“俺は揺れてない”って顔で。


母が小さく息を吐く。


それは、警戒がほどける音だった。


「……そうね」


短い。


でも、その声はやわらかい。


ああ。


認めてもらえた。


帰り道。


「怒ってなかったですよね」


「怒る理由あるか?」


悠さんは、いつも通り。


でも少しだけ目がやさしい。


「朱里の母親だろ」


当たり前みたいに言う。


胸があたたかくなる。


この人は、許可をもらいに来たんじゃない。


私の人生の隣に立つと、報告しに来た。


私はちゃんと、紹介できた。


私の選んだ人を。




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