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土曜の夜。
「桜宮ってどうなん?」
悠が切り出したのは、
食後のコーヒーを飲みながらだった。
湊が顔を上げる。
「駅周辺?」
「うん。宮ノ原も見たけどさ。
桜宮のほうが動きやすいかなって」
遥花が少し笑う。
「ついにご近所さん?」
「まだ決めてねえよ」
即否定。でも遅い。
湊は分かってる顔だ。
「本館、桜宮中央だよな」
「……そう」
「なら桜宮が一番自然だと思う」
迷いがない。
悠はちらっと朱里を見る。
朱里は少しだけ緊張した顔で、でもまっすぐ。
「私は、通いやすいのが一番なので……」
遥花がふっと笑う。
「気、遣わなくていいのに」
「遣ってません」
小さく首を振る。
「悠さん、どこでもいいって言うから」
一瞬、空気がやわらぐ。
湊がコーヒーを置く。
「桜宮は、住みやすいですよ」
その言い方は穏やかだけど、少し誇らしげだ。
「子ども育てるのも悪くないですし」
遥花が肘で軽く小突く。
「気が早い」
でも、笑ってる。
悠は部屋を見回す。
この家に、何年入り浸ったか分からない。
学生の頃、何度も泊まった。
喧嘩もしたし、笑い転げもした。
その全部が詰まってる街。
「……近すぎねえ?」
ぽつり。
湊が目を細める。
「嫌なん?」
「……嫌じゃない」
むしろ。
安心する。
桜宮。
ここでなら、ちゃんと生活できる気がする。
「決まりか?」
湊が静かに聞く。
悠は朱里を見る。
「どうする」
朱里は少し考えて、でも迷いなく言う。
「桜宮、好きです」
それだけで十分だった。
悠は頷く。
「じゃあ、桜宮だな」
遥花がぱっと明るく笑う。
「ご近所決定!」
湊は少しだけ、満足そうに目を伏せた。
「歓迎する」
その声が、やけに温かい。
悠は内心で思う。
ああ、結局ここに戻ってくるんだな。
桜宮。
始まりの街。
そして、きっと——
未来の街。




