7/157
7
数日ぶりの図書館。
特別な用事があるわけじゃない。
資料はまだ途中だし、来る理由はいくらでもある。
カウンターに目をやる。
いる。
それだけで、なぜか小さく息を吐いている自分に気づく。
別に、いないと思っていたわけじゃない。
ただ確認しただけだ。
席に着く。
しばらくして、返却のために立ち上がる。
カウンターに本を置く。
彼女が顔を上げる。
「ありがとうございました」
いつもの声。
少しだけ間を置いて、口を開く。
「……この前は」
言いかけて、やめそうになる。
わざわざ言うことか?
でも、言わないのも変だ。
「傘、ありがとうございました」
ほんの数秒、沈黙。
彼女は少しだけ目を丸くして、
それから小さくうなずく。
「いえ」
それだけ。
余計な言葉はない。
「風邪、ひいてないですか」
淡々とした声。
業務の延長みたいに。
「大丈夫です」
短く返す。
会話は終わる。
それだけ。
なのに。
前よりも、少しだけ空気が違う気がする。
何が違うのかは分からない。
距離は同じ。
立ち位置も同じ。
でも、“知らない誰か”ではない。
自分の名前を知っている人。
傘を共有した人。
ただそれだけ。
席に戻る。
ページを開く。
集中できる。
でも、カウンターの方に視線を向ける回数が、
ほんの少しだけ増えている。
無意識に。
気づかないふりをする。
次に来るのは、
何日後だろう。
理由は、いくらでもある。




