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閉館時間ぎりぎりまでいるのは、
癖みたいなものだ。
追い出される直前の静けさが好きだ。
今日も同じ。
資料を閉じ、鞄にしまい、外へ出る。
そこで初めて気づく。
雨。
思ったより強い。
空を見上げる。
小雨だと思ったのに、普通に濡れる量。
入口脇で立ち止まる。
人はまばら。
数分。
止む気配はない。
スマホを見る。
天気予報は、しばらく続く表示。
……やられた。
そのとき、後ろで扉が開く音。
振り返ると彼女だった。
鞄を肩にかけて、傘を開こうとしている。
目が合う。
一瞬、間。
「神谷さん?」
「篠原さん」
口が先に動いた。
彼女は少しだけ首を傾げる。
「傘、ないんですか?」
視線が空をかすめる。
「すぐ止むと思ったんですけど」
言い訳みたいになる。
彼女は一瞬空を見て、それから少しだけ迷う。
「駅までなら、入ります?」
さらっと、何の気負いもなく。
ただ、事実を提示するみたいに。
数秒、考える。
断る理由はない。
「……じゃあ、駅まで」
差し出された傘の下に入る。
思ったより、距離が遠い。
……いや、違う。
自分が高いのか。
傘が自然と彼女側に傾く。
ほとんど意識せずに、持ち手を少し下げる。
そうしないと、彼女の肩が濡れる。
肩が触れないように、少しだけ外側に寄る。
雨音が、傘を叩く。
足並みは自然と揃う。
会話はない。
でも沈黙が重くない。
「濡れてますよ」
見上げるように言う。
その距離で気づく。
ああ、こうやって話す高さなんだな。
名前を呼ばれたときよりも、
妙に意識に残る。
傘を持つ手が自然に彼女側へ寄っている。
それが、無意識すぎて少しだけ落ち着かない。




