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スマホをしばらく見つめてから

通話ボタンを押した。


数コールで出る。


『もしもし』


「今いいか」


『ん、どうした』


少し間を置いてから言う。


「……相談」


『珍し』


「うるせえ」


『仕事の話ちゃうよな』


「ああ」


そこで一瞬だけ迷う。


言うか、やめるか。


でも、もう決めてる。


「プロポーズしようと思ってる」


『……は?』


声は低いが、動揺はしてない。


『早ない?』


「一年だぞ」


『まだ一年やろ』


「十分だ」


少し笑う気配。


『で、なんの相談』


「シチュエーション」


電話の向こうで小さな物音。


そして。


『……遥花さん』


は?


遠くで、


『んー?』


柔らかい声。


『悠が相談あるって』


『相談?悠が?』


「なんで呼ぶんだよ」


『俺より女性の意見のが参考になるかと』


合理的な声。


「勝手に巻き込むな」


『なにー?』


スピーカーに切り替わったらしい。

遥花の声がはっきりする。


『プロポーズするらしい』


『えっ』


間。


『えっ!?誰が!?』


「俺以外に誰がいる」


『あ、そっか』


軽い。


『で?』


遥花の声が少し弾む。


『どんな感じ考えてるの?』


「まだ決めてない」


『指輪は?』


「ある」


『決めたん?』


「ああ」


少しだけ誇らしい気持ちになる。


『じゃあ、場所?』


「それを聞いてる」


遥花が少し考える気配。


『朱里ちゃん、派手なの好きじゃなさそう』


「ああ」


『人前とかサプライズ大勢とかは違うよね』


『静かなところがいいと思う』


遥花が続ける。


『ちゃんと目見て、

ちゃんと話してくれるのが一番嬉しいタイプじゃない?』


その言葉に、少し胸が静かになる。


分かってる。


でも、他人に言われると確信になる。


「家、とか?」


俺が言う。


『ええんちゃう』


湊。


『でも特別感は欲しいよね』


遥花。


『記念日とか?』


「十月」


『今じゃん!』


少し笑う。


『夜の公園とか、ベタだけどいいかも』


『ベタは外さないですもんね』


「お前黙ってろ」


『いいじゃん、ベタ』


遥花が笑う。


『朱里ちゃん、ちゃんと大事にされてるって

分かる言葉がいいと思う』


「……守る、とか?」


少し考えてから言うと、


電話の向こうで二人が同時に


『重い』


「は?」


『重いよ』


『重いですね』


なんなんだこいつら。


遥花がやわらかく言う。


『朱里ちゃん、

強いけど不安もちゃんと持つ子だと思う』


静かになる。


そうだな、と思う。


『悠』


湊が呼ぶ。


「ん」


『ちゃんと好きって言えよ』


「……ん」


『きゃー』


遥花の声。


『緊張するね!』


「なんでお前が」


『だって楽しみだもん』


電話の向こうで小さく笑い合う気配。


「……ありがとな」


ぽつりと出る。


『おう』


『うまくいったら報告してね』


「失敗前提か」


『失敗したら残念会ひらこうね!』


「……切るぞ」


『頑張れ』


『応援してる』


通話が切れる。


静かな部屋。


スマホを見下ろす。


十月。


秋。


静かな場所。


目を見て。


ちゃんと好きって言う。


……逃げ道は、もうないな。




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