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「私、受かりました」


朱里がそう言った瞬間の顔を、たぶん一生忘れない。


笑ってるのに、泣きそうで。

泣きそうなのに、ちゃんと前を向いてる。


思ったより、声は落ち着いていた。


もっと大げさに喜ぶかと思ってた。

抱き上げるとか、そんな勢いになるかと。


でも違った。


胸の奥が、じわっと熱いだけだった。


「よくやったな」


それだけ言うと、朱里は少し目を潤ませて

こくりと頷いた。


「悠さんが、いてくれたからです」


違う。


喉まで出かかった言葉を飲み込む。


お前が掴んだんだろ。


俺は、隣にいただけだ。


それでも。


“隣にいた”って言えることが、妙に誇らしかった。




それから朱里はいつもより少し早口だった。


「研修ってどんな感じなんでしょう」

「配属、希望通りますかね」

「ちゃんとやっていけるかな」


不安と期待が混ざった声。


俺は横で聞きながら、ふと考える。


朱里が社会人になる。


守るだけじゃなくて。


支えるだけじゃなくて。


並ぶ。


対等に。


それが嬉しいのに、少しだけ緊張する。




部屋に戻り上着を脱いで、ベッドに腰掛ける。


スマホを手に取る。


検索欄の履歴。


“婚約指輪 シンプル”


指が止まる。


スクロール。


何度も見たページ。


保存してある画像。


まだ具体的に動いたわけじゃない。


タイミングも、言葉も、何も決めてない。


でも。


今日で、言い訳はなくなった。


“まだ学生だから”

“もう少し落ち着いてから”

“就職が決まってから”


全部、終わった。


朱里は、自分の力で道を選んだ。


なら。


俺も進むだけだ。


守るとか、支えるとか。


そんな上からじゃない。


隣に立つ。


その覚悟を、ちゃんと形にする。


スマホの画面を消す。


天井を見上げる。


深く、息を吐く。


「……次は、俺の番だ」




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