61
時間になる五分前から、ページは開いている。
更新ボタンの上で、指が止まる。
「まだだぞ」
隣から悠さん。
分かってます、と小さく返す。
分かっているのに、落ち着かない。
受験番号は、もう何十回も確認した。
メモにも書いた。
スマホのメモ帳にも保存した。
間違えないように。
間違えたくないから。
「……いきます」
時間ぴったり。
一瞬、白い画面が表示される。
息を止める。
上から、目で追う。
……ない。
まだ上の方だ。
もう少し下。
……ない。
胸の奥が、じわっと冷える。
スクロール。
指が震える。
数字がうまく追えない。
一回止める。
深呼吸。
もう一度、ゆっくり。
上から。
ひとつ、飛ばしてないか。
似てる番号、見間違えてないか。
ない。
視界の端が、暗くなる。
「……朱里」
悠さんの声。
すぐ隣のはずなのに、
すごく遠い。
まだ全部見てない。
まだ下がある。
スクロール。
もう一段。
……ない。
喉がひくっと鳴る。
あれ。
だめ、だった?
そんなはず。
心臓が、どくん、と大きく鳴る。
手が、冷たい。
「……もう一回、上から見ます」
自分の声も遠く感じる。
震えてる。
最初から。
ゆっくり。
一行ずつ。
数字を、声に出さずに読む。
ちがう。
ちがう。
ちが――
止まる。
あれ。
指が、止まる。
見間違いかもしれない。
もう一度。
数字。
受験番号。
合ってる。
一桁も、間違ってない。
一瞬、脳が理解できない。
これ、私?
ほんとに?
「……あ」
やっと声が出る。
でも、笑えない。
まだ、信じられない。
「どう?」
悠さんの声。
振り向く。
言葉が出ない。
画面を、ただ指差す。
悠さんが、覗き込む。
「……あるじゃん」
静かな声。
その一言で、
やっと現実になる。
ある。
私の番号。
ある。
その瞬間、視界が揺れ足の力が抜ける。
抱き止められる。
ぎゅっと。
強く。
「言えよ」
低くて、少しだけ掠れた声。
「……ありました」
やっと言えた。
言った瞬間、涙が溢れる。
安堵が、一気に押し寄せる。
怖かった。
落ちるかもしれないって、ずっと。
口には出さなかったけど。
悠さんの胸に顔を埋める。
「よくやったな」
その声が、あたたかい。
背中を撫でる手が、ゆっくり。
震えが止まらない。
でも、怖くない。
「……悠さん」
「ん?」
「私、受かりました」
当たり前の確認みたいに言う。
「知ってる」
少し笑う気配。
でも、腕は離れない。
「これで」
言葉が、自然に出る。
「ちゃんと、隣に立てます」
一瞬、腕の力が強くなる。
「最初から立ってるだろ」
ずるい。
涙がまた出る。
でも、今日は弱い涙じゃない。
嬉しい涙。
「……逃げませんよ」
小さく言う。
すると、耳元で。
低く。
「逃がすかよ」
心臓が跳ねる。
私は今日、
未来を掴んだ。
そして。
この人の隣にいる未来を、
ちゃんと選べた。




