60
「ゆうさ、ん……っ」
自分の声とは思えないくらい甘くなる。
胸が、どくどく鳴っている。
さっきまで笑っていたのに。
からかっていたのに。
“うちのやけん”なんて、強がって。
覚悟は、していたはずだった。
でも。
腕の中に閉じ込められた瞬間、
初めて思った。
――あ、ちがう。
悠さん。
やさしい人。
理性的で、いつも止まってくれて。
私が余裕なくなっても、笑って受け止めてくれる人。
そのはずなのに。
「お前が煽ったんだろ」
低い。
耳に落ちる声が、いつもと違う。
熱い。
「ちゃんと俺のになれよ」
息が、近い。
苦しくなるくらい近い。
心臓が跳ねる。
怖い、とは違う。
でも、初めて見る表情。
目が、真っ直ぐで。
逃がさない、って顔。
「……もう、むり……っ」
思わずこぼれる。
体が追いつかない。
頭も。
覚悟はあった。
でも想像よりずっと、重い。
熱も、呼吸も、視線も。
いつもなら。
「大丈夫か」って止めてくれるのに。
今日は止まらない。
止まらないのに、
乱暴じゃない。
ちゃんと見てる。
ちゃんと、待ってる。
「やめてほしかったら言え」
低い声。
その一言で分かる。
無理やりじゃない。
選ぶのは、私。
喉が鳴る。
怖いんじゃない。
知らない悠さんが、いる。
でも。
目を開ける。
ちゃんと、見る。
悠さんの目。
真剣で、少し苦しそうで。
余裕なんて、ない。
私だけじゃない。
「……やめないで」
小さく言う。
震えているのは、覚悟のせい。
その瞬間。
腕の力が、ほんの少しだけ強くなる。
抱きしめられる。
壊さない力で。
守るみたいに。
でも、逃がさない。
「……っ」
呼吸が絡む。
息が、うまくできない。
「苦しいか」
すぐに聞いてくれる。
やっぱり優しい。
でも、止まらない。
「……すこし」
正直に言う。
「でも、いやじゃないです」
それを言った瞬間、
悠さんの目が、揺れた。
ああ。
この人、やっぱり。
優しいだけじゃない。
男の人だ。
欲しいって、思ってくれてる。
選んでくれてる。
私を。
「……ゆうさん、すき」
途切れ途切れ。
情けない声。
でも、嘘じゃない。
深く、抱きしめられる。
胸に押しつけられて、
鼓動が聞こえる。
早い。
私と同じ。
余裕ないの、私だけじゃない。
「俺も」
低くて、かすれた声。
その声が、背筋を震わせる。
触れられるたびに、
優しいのに、強い。
守られてるのに、奪われてるみたい。
混ざる。
体温と、呼吸と、覚悟。
「……いっぱいいっぱい、です」
正直に言う。
すると、
「俺もだよ」
小さく笑う声。
その一言で、力が抜ける。
ああ。
この人となら、大丈夫。
優しいだけじゃない。
ちゃんと欲しがってくれて、
ちゃんと確認してくれて、
ちゃんと、私を選んでる。
「……ちゃんと、俺のだから」
囁かれて、
胸がぎゅっとなる。
“俺の”。
それは、縛る言葉じゃない。
選ばれた言葉。
私は、小さく頷く。
怖さは、もうない。
あるのは、熱と。
信じたい気持ち。
優しい悠さん。
でも、今日知った。
悠さんは、男の人なんだ。
そしてその人が、
私を欲しいって言ってくれる。
それが、こんなに。
嬉しいなんて。
2人が言う「俺の」は
自分のもののように扱う、遠慮しない
初めて悠が遠慮せず、欲をぶつけた日。




