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「今日泊まっていきますよね?」
無邪気な顔で言う朱里。
「……帰るよ」
距離、保つため。
「なんでですか!」
朱里が一歩詰める。
近い。
「お前さぁ……」
ため息混じりに睨む。
さっきから自覚がないのが一番たち悪い。
「今日も泊まってください」
少しだけ声が落ちる。
それから、視線を逸らして。
「私の、なんですよね……?」
照れながら。
その言い方。
理性に悪い。
「……まじでやめろ」
「どうなっても知らねえかんな」
警告。
最後の。
これで朱里は怯むかと思った。
でも。
「……悠さん意気地なしです」
は?
「いつも理性的で、私ばっかり余裕なくて」
胸が、ぎゅっとする。
「……ちゃんと、悠さんの私にしてください」
空気が止まる。
目が逸らせない。
震えてるくせに、逃げない。
本気だ。
一歩、詰める。
朱里の背中が壁に当たる。
「何言ってるか分かってる?」
低い声。
朱里、こくんと頷く。
喉が鳴る。
限界だ。
腕を掴んで、引き寄せる。
そのまま抱き上げる。
「きゃ……!」
軽い。
ほんと軽い。
「お前さ」
歩きながら言う。
「煽るのうまくなったよな」
ベッドに下ろす。
いや、正確には――
一緒に倒れ込む。
柔らかいマットレスが沈む。
距離、ゼロ。
朱里の呼吸が速い。
俺も。
「後悔すんなよ」
最後の確認。
朱里が、そっと俺のシャツを掴む。
「しません」
小さく。
でも、強い。
そのまま額を押し付ける。
「意気地なしって言ったの、撤回しろ」
「やです」
「なんで」
「……今の余裕ない悠さん、好きだから」
完全に殺しにきてる。
思わず笑う。
でも、もう止まらない。
唇が触れる。
さっきまでと違う。
深い。
逃がさないキス。
朱里の指が背中に回る。
「……ほんとに覚悟して言ったんだよな」
問いかける。
朱里は目を閉じたまま。
「うん」
それだけ。
もう十分。
腕の中の体温を抱きしめる。
「ちゃんと、俺のにする」
低く、囁く。
朱里が小さく息を飲む。
その反応がまた、理性を削る。
ベッドが軋む。
呼吸が混ざる。
言葉が少なくなる。
甘さじゃない。
確かめ合う温度。
「……悠さん」
「ん?」
「すき」
直球過ぎる言葉に胸が熱い。
額を寄せたまま、目を閉じる。
「俺も」
「だから、逃げんな」
そのまま、深く抱きしめる。




