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「んん……?」
隣で小さくうめく声。
目を開けると、朱里が眉を寄せている。
「……あたま、なんか……おもい……」
そりゃそうだ。
ほとんど飲めないくせに
珍しくちゃんと1本空けてたからな。
「起きたか」
声をかけると、ゆっくりこっちを見る。
「……ゆうさん……?」
「おはよ」
「おはようございます……」
まだ半分寝てる顔。
かわいい。
「寝る前のこと、覚えてるか?」
何気ない顔で聞く。
朱里はしばらく天井を見つめてから、はっとする。
「寝るまえ……?」
「うん」
「わ、私なにかしましたか……?」
きた。
「へぇ、覚えてねえんだ」
わざと間を置く。
「え」
「結構積極的だったぞ」
一瞬で赤くなる。
「せ、せっきょくてき……!?」
「付き合って初めてなんじゃないか?」
完全に固まる。
「な、なにを……」
「帰らないでください、とか」
「……っ」
耳まで真っ赤。
「いっちゃいかん、とかも言ってたし」
一拍。
朱里が、完全停止。
「……いっちゃ……?」
顔の色が変わる。
さっきの赤とは違う。
もっと深い赤。
「……そ、それは……」
声が震える。
「そ、そういう意味で……?」
「は?」
何の話だ。
「お、終わっちゃ……だめ、みたいな……」
数秒、理解が追いつかない。
あ。
ああ。
そっちで受け取ったのか。
「……は?」
思わず素で声が出る。
朱里はもう布団を握りしめてる。
「ち、ちがうんですか……!?」
涙目。
「違うに決まってんだろ」
「じゃ、じゃあなんの……」
「置いてくなって意味だよ」
沈黙。
完全に止まる。
数秒後。
さらに赤くなる。
「何想像してんだよ」
「な、なにもしてません!」
「顔が全部言ってる」
布団に顔を埋める。
「もうやです……」
肩が小刻みに震えてる。
笑いを堪えるのに必死。
「お前ほんと可愛いな」
「かわいくないです!」
「昨日は可愛かったけどな」
「やめてください!」
枕が飛んでくる。
「ていうかな」
少しだけ真面目に戻す。
「本気で酔ってただけだから安心しろ」
顔だけ出して、じっと見る。
「……ほんとに?」
「ほんと」
「なにも……」
「なにもしてねえ」
強調する。
「俺がどんだけ我慢したと思ってんだ」
ぼそっと言うと、朱里の目が揺れる。
「……すみません」
「むしろご褒美だった」
「ごほうびって言わないでください……!」
また赤くなる。
「でもな」
少し顔を近づける。
「“いっちゃいかん”は覚えとけ」
「やめてください……!」
「置いてくな、って意味だぞ?」
「わかってます!」
「さっきまで別の意味だったろ」
「ちがいます!」
必死。
可愛すぎる。
「今度は覚えてる状態で言え」
「言いません!」
隣で真っ赤になってる朱里。
昨夜の甘さも、今朝のからかいも、
全部ひっくるめて。
「……ほんと、飽きねえな」
ぽつりと言うと、
「飽きないでください」
小さく返ってくる。
「飽きねえよ」
そのまま額に軽くキス。
「ずるいです……」
そう言いながらも、少しだけ嬉しそうな顔。
ああもう。
ほんと、可愛い。




