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面接の一週間前。
図書館の時計の音が、やけに大きい。
筆記の結果はまだ出ていない。
次は面接。
「大丈夫です」
そう言い聞かせているのは
誰に対してなのか分からない。
ノートを閉じる。
同じページを三回読んでいることに気づいて
ため息が漏れた。
――怖い。
落ちたらどうしよう、よりも。
期待されている気がするのが、怖い。
スマホが震える。
《今、終わった。迎え行く》
短いメッセージ。
それだけで、胸が少し静かになる。
駅前のベンチで待つ。
スーツ姿の人たちが行き交う中
背の高い人が近づいてくる。
「顔色悪いぞ」
隣に座る。
少しだけ距離が近い。
「……もしだめだったらって、考えちゃって」
ぽつりとこぼれる。
悠さんは、すぐに否定しない。
少しだけ間を置いてから
「俺が朱里を紹介した意味、分かる?」
「……え?」
「俺の世界に入れたってこと」
「同年代よりは、たぶん安定してると思うぞ」
照れもなく、自慢でもなく
事実みたいに。
「お前なら大丈夫だとは思うけど」
そこで一度、こちらを見る。
「もしだめでも、今年だけじゃないし」
少しだけ、声が低くなる。
「俺がいるだろ」
その言葉が、胸の奥に落ちる。
慰めじゃない。
励ましでもない。
“前提”の響き。
私が受かるかどうかに関係なく。
一緒にいることが、決まっているみたいな。
視線を落とす。
指先が、少し震えている。
「……そんな簡単に言わないでください」
「簡単じゃねえよ」
「俺は、長い前提で考えてる」
長い前提。
未来の話。
まだ何も決まっていない。
なのに。
不思議と、怖くない。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
――あ。
ふと、思う。
私、この人と。
言葉にすると、壊れそうで。
でも、静かに、確信に近いものがある。
結婚、とか。
そういう具体的な形じゃなくて。
もっと、自然な感覚。
“この人の隣にいる未来”が、
当たり前みたいに浮かぶ。
「……ありがとうございます」
小さく言うと、
「礼言われることしてねえ」
と、いつもの顔で返される。
その横顔を見て、思う。
大丈夫かどうかは分からない。
受かるかどうかも、分からない。
でも。
この人がいる未来は、揺らがない。
それだけで、少しだけ、強くなれる気がした。




