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土曜の夕方。
駅前の小さなイタリアン。
奥の席に並んで座る。
「……どこも変じゃないですか」
隣で朱里が小さな声で聞く。
三回目だ。
「変じゃない」
「ほんとに?」
「さっきも言った」
髪を触って、袖を直して、また俺を見る。
「大丈夫だって」
言いながら、胸の奥が妙に落ち着かない。
紹介する。
俺の隣を。
入口のベルが鳴る。
顔を上げると、見慣れた二人が入ってきた。
遥花と、湊。
目が合う。
湊が気づいて、少しだけ目を細める。
立ち上がるとそれに合わせて、朱里もすっと立った。
「初めまして。朱里と申します」
丁寧に、深く頭を下げる。
緊張しているはずなのに、声は落ち着いている。
横目で見る。
背筋がまっすぐだ。
柔らかいけど、芯がある。
ああ、と胸の奥で思う。
ちゃんと、俺の隣だ。
「遥花です」
「湊です」
挨拶が交わされる。
思ったより自然に会話は流れた。
遥花が話を振る。
湊が少しだけ探るように見る。
朱里は、話しすぎない。
でも黙りすぎない。
俺が適当に投げた話も、きちんと拾う。
「それ、前も言ってましたよ」
「言ったか?」
「言いました」
小さなやり取り。
積み重ねのある会話。
その瞬間、遥花の視線を感じる。
ああ、見てるな。
でも別に、隠すことはない。
帰り際。
店の外で、湊がぽつりと呼ぶ。
「悠」
「何だよ」
「大事にしてますね」
一瞬、言葉が止まる。
わざわざ言うな。
でも。
「まあな」
短く返す。
湊は小さく頷いた。
改札前で別れる。
「今日はありがとうございました」
朱里がもう一度、丁寧に頭を下げる。
少しだけ頬が赤い。
遥花が自然に笑う。
「こちらこそ。またね」
改札を抜ける。
隣に朱里がいる。
少しだけ距離が近い。
「……どうでしたか」
小さな声。
「何が」
「変じゃなかったですか」
思わず息が漏れる。
「だから大丈夫だって言っただろ」
「でも……」
立ち止まる。
改札の向こうで、二人がまだこちらを見ている気がする。
三人で一つ、みたいな時間は長かった。
でも今は違う。
俺の隣は、ここだ。
「ちゃんとしてた」
そう言うと、朱里がほっと笑う。
その顔を見て、胸の奥が静かに満ちる。
悪くない。
いや。
「行こ」
俺が言う。
朱里が頷く。
並んで歩き出す。
ただ、隣に。
内側 #131の悠視点。




