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試験会場の正門前。

日曜の朝なのに、人が多い。


「じゃあ、行ってきます」


朱里はいつもより少しだけ硬い声で言った。


「ん」


短く返す。


本当は何か言いたい。

励ましとか、根拠のない自信とか。


でも、今は邪魔になる気がした。


「終わったら連絡します」


「待ってる」


それだけ。


朱里が歩いていく。


背筋が伸びている。

小さな背中。


――頑張れ。


声には出さない。


試験は午前と午後に分かれている。

終わるのは夕方近く。


一度帰ろうかとも思った。

でも、なんとなく離れたくなかった。


近くのカフェに入る。


資料を開く。

仕事のメールを返す。

目は文字を追っているのに、頭は別のことを考えている。


受かるとか、落ちるとか。


そんな簡単な話じゃない。


彼女がこの数ヶ月、どれだけやってきたか知っている。


閉館間際まで図書館に残って、

俺より帰りが遅くなる日もあった。


電話越しに小さくため息をつく声も聞いた。


だから、


報われてほしい。


時計を見る。

まだ終わらない。


やけに時間が長い。


夕方。


正門の前に戻る。


ぞろぞろと受験生が出てくる。


見つけるのはすぐだった。


朱里は少し俯いて歩いている。


俺に気づくと、足が止まった。


「……お疲れ」


「……悠さん」


声が、少し掠れている。


「どうだった」


少し迷ってから、


「分かりません」


「手応えは?」


「……できた問題もありますけど

できなかったところもあって」


言いながら、唇を噛む。


自信がないときの癖。


「でも、全部やりました」


その一言が、すべてだった。


俺は一歩近づく。


人目がある。

抱きしめたりはしない。


ただ、頭に手を置く。


「よくやった」


小さく撫でる。


朱里の肩が、わずかに震える。


「まだ、分からないのに」


「分からなくていい」


今は結果じゃない。


ここまで来たことが全てだ。


「今日はもう、何も考えんな」


「……無理です」


少しだけ笑う。


「じゃあ考えろ」


「どっちですか」


「俺と飯どこ行くか」


一瞬、ぽかんとする。


それから、小さく笑った。


「……ずるいです」


「何が」


「そうやって、すぐ普通に戻すの」


「紹介の話、覚えてるか」


「……はい」


「二週間後な」


朱里が少しだけ目を見開く。


「その頃には、少し落ち着いてるだろ」


不安も、緊張も。


全部ゼロにはならない。


でも。


一人で背負わせない。


「……はい」


小さく頷く。


その横顔は、少しだけ柔らかかった。


大丈夫。


きっと。


結果がどうであれ。


俺はもう、決めてる。




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