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目を開けると、部屋の色が変わっていた。


白かった光が、少しだけ橙に染まっている。


「……何時」


キッチンから音がする。


ゆっくり起き上がる。


身体がまだ少し重い。


隣はもう空いている。


代わりに、鍋の小さな音。


エプロン姿の朱里が、コンロの前に立っている。


袖を少しまくって、真剣な横顔。


昼間の赤さは消えているけれど、どこかまだ柔らかい。


悠は無言で立ち上がり、キッチンの入り口に寄りかかる。


じっと、見る。


包丁を持つ手。


揺れる髪。


足元が少し浮き気味な背伸び。


「……あんまりみないでください」


振り向かずに言われる。


「なんで」


「気になります」


「何もしてないだろ」


「してます。見てます」


当たり前だ。


見てる。


彼女が、自分のために夕飯を作っている。


それだけで、胸の奥が静かに満ちる。


「じゃあ……」


悠はゆっくり近づく。


後ろから、そっと腕を回す。


包み込む。


朱里がぴくっと震える。


背中が、すっぽり収まる。


「ちっさ」


「……〜〜っ!」


耳まで赤くなるのが分かる。


「もう、悠さん!」


「事実」


顎を頭に乗せる。


ちょうどいい高さ。


背中越しに伝わる体温。


「包丁持ってるんですから、危ないです」


「落とさないだろ」


「落としませんけど……」


でも動けない。


悠の腕の中。


小さく息を吐く。


悠は笑う。


さっきまで理性を削られていた男とは思えない

穏やかな笑み。


ふと、思い出したように言う。


「そういえば」


「はい?」


「俺、幼馴染の話したっけ」


朱里が少し考える。


「えと……遥花さんと湊さん、ですか?」


「ん」


腕はそのまま。


顎も乗せたまま。


「今度、会ってほしい」


朱里の動きが止まる。


「えっ」


「紹介したい」


声は軽いけど、目は真面目。


「朱里のことも」


一拍。


「二人のことも」


言い方が少し不思議。


でも意味は分かる。


自分の大事な人たちを、繋げたい。


「わ、私、ですか……?」


「お前以外誰がいる」


「でも、まだ……」


「まだ?」


「ちゃんと、してないというか……」


言葉を探す。


悠は少しだけ腕の力を強める。


逃げられない距離。


「ちゃんとしてる」


「俺の彼女」


静かに。


確定させる。


朱里の視界が少し滲む。


嬉しさと緊張が混ざる。


「……怖くないですか?」


「何が」


「私を、紹介するの」


悠は少しだけ笑う。


「誇らしい」


それだけ。


背中越しに伝わる声の振動。


朱里は包丁を置く。


ゆっくり振り向く。


まだ腕の中。


距離が近い。


「……会います」


小さく、でもはっきり。


悠は満足そうに頷く。


「よし」


「いつですか?」


「そのうち」


少しだけ悪い顔。


「緊張しとけ」


「もうしてます……」


笑い声が重なる。


夕方の光が、二人を包む。


世界が少し広がる。


二人だけだった時間に、誰かが加わる。


それでも。


腕は離れない。




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