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最近、悠さんは少し忙しい。
忙しいと言っても、
連絡はくれるし、
会えばちゃんと笑う。
変わったわけじゃない。
わかってる。
大事にしてくれていることも。
急がないことも。
触れすぎないことも。
私が不安にならないように、
いつも一歩引いてくれていることも。
全部、わかっている。
だからこそ、時々こわい。
優しいまま、
遠くに行ってしまいそうで。
卒業まで、あと一週間。
「春から、社会人ですね」
言った瞬間、
胸の奥が少しきゅっとした。
悠さんは笑って、
「まだ学生だけどな」
なんて軽く返す。
でも、もう“次”の顔をしている。
私だけが、
まだここにいるみたいで。
置いていかれるわけじゃない。
そんな人じゃない。
でも。
環境が変われば、
時間も変わる。
会える頻度も、
話す内容も、
きっと少しずつ。
私は三年生。
これから就活。
“追いかける側”になる。
ふと、思う。
今のうちに、
何か確かなものが欲しい。
手を繋ぐ。
キスをする。
それでも十分なはずなのに。
足りない、わけじゃない。
でも。
「ちゃんと、隣にいるって、思っていたい」
声に出せない本音。
悠さんは、
きっと私が言えば止まらない。
だから言えない。
優しい人だから。
私が不安だから、
なんて理由で、
揺らしたくない。
でも。
夜、一人でいるとき。
抱きしめられたときの温度を思い出す。
キスのあと、
頬に触れる手の熱さ。
“止めた”あの夜。
大事にしてくれた証拠。
わかってる。
わかっているのに。
「……ずるい」
小さく呟く。
優しすぎるから、
私ばかり欲張りみたいになる。
卒業一週間前。
私のほうが、
覚悟を決めなきゃいけないのかもしれない。
選びたい。
守られるだけじゃなくて。
並びたい。
春が来る前に。




