↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
35/157

35




イルミネーションの余韻をまとったまま

朱里の部屋の前に立つ。


「……ほんとに、いいのか」


確認みたいに言う。


朱里は鍵を握ったまま、小さく頷く。


「……少しだけ、です」


“少しだけ”。


その言葉がやけに生々しい。


扉が開く。


ふわっと、柔らかい匂い。


洗剤と、少し甘い香り。


「お邪魔します」


靴を脱ぐ。


悠は一瞬だけ部屋を見渡す。


整っている。


きちんとしている。


朱里らしい。


「散らかってなくて、よかった……」


「元から散らかってなさそうだけど」


「き、今日は特に……」


悠は笑いそうになる。


でも堪える。


今笑ったら、多分崩れる。


コートを脱ぐ。


距離が近い。


部屋は外よりずっと静かだ。


「……何するんですか」


朱里が小さく聞く。


その質問の意味を、

二人とも分かっている。


悠は少しだけ近づく。


「何も」


そう言いながら、手を伸ばす。


頬に触れる。


冷たさはもうない。


代わりに熱。


朱里の呼吸が浅くなる。


「我慢やめていい、とはきいたけど」


指が耳の後ろにかかる。


「全部とは言ってない」


朱里の睫毛が震える。


「……っ」


悠はゆっくり距離を詰める。


唇が触れる直前で止める。


鼻先がかすめる距離。


「……キスは、していい?」


ちゃんと聞く。


朱里は一瞬目を閉じてから、頷く。


それだけで十分だった。


触れる。


やわらかい。


冬の冷えが溶けるみたいに、

ゆっくり、深くなる。


朱里の指が、

悠の服を掴む。


その力に、理性が軋む。


「……朱里」


小さく。


熱を含んで。


朱里の肩が震える。


「ゆ、悠さん……」


その声。


もうだめだ。


悠は一歩踏み込む。


朱里の背中が壁に触れる。


腕で囲む。


体格差がはっきりする。


息が混ざる。


キスが少しだけ、深くなる。


朱里の呼吸が乱れる。


「……っ」


悠は、止まる。


ぐっと、止める。


目を閉じたまま、額を壁に預ける。


「……やばい」


小さく呟く。


「これ以上は、多分、ちゃんと止まれない」


朱里は驚いた顔で見上げる。


悠の喉が動く。


「大事にしたい」


はっきり言う。


「急がなくていい」


指先で頬をなぞる。


優しいのに、熱い。


「今日は、ここまで」


言い聞かせるみたいに。


朱里の目が潤む。


「……ごめんなさい」


「なんで」


「私が、あんなこと言ったから……」


悠は笑う。


少し苦い。


「俺が勝手に揺れてるだけ」


そう言って、もう一度軽く触れる。


今度は、短いキス。


確かめるみたいに。


「今日は、帰るな」


言葉にすると、少しだけ楽になる。


ドアの前。


最後にもう一度抱きしめる。


包むみたいに。


「……好き」


朱里が顔を胸に押し付ける。


「……私も、です」


悠は深く息を吐く。


扉が閉まる。


外の冷たい空気が一気に流れ込む。


悠は空を見上げる。


「……よく耐えた、俺」


小さく呟く。


でも口元は、どうしようもなく緩んでいた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。