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外に出て、マフラーを巻き直す。
そこに、背後から声。
「朱里」
振り向くと佐藤が立っている。
少し距離が近い。
「お疲れ」
「うん、お疲れさま」
朱里はいつも通りに返す。
表情は穏やか。
でも、ほんの少しだけ視線を逸らす。
「今週の飲み会、来るよな?」
「……ごめんね、ちょっと予定が」
「またそれ?」
佐藤が一歩近づく。
カウンター越しじゃない。
同じ側に立つ。
こわい。
「そういうの得意じゃないから…」
佐藤がまた一歩近づこうとした時、
「朱里」
振り向く前に、腕が伸びる。
自然に、でも迷いなく。
引き寄せられる身体。
体格差が、そのまま包み込む形になる。
「っ……」
朱里の肩が跳ねる。
背中に感じる体温。
低く落ちる声が、すぐ耳元。
「寒い」
それだけ。
でも距離が、近すぎる。
佐藤が固まる。
「……は?」
悠は朱里の肩に顎を乗せるでもなく
ただ軽く引き寄せる。
背中と胸板がぴたりと重なる。
明確な差。
朱里の足が一歩よろける。
「ゆ、悠さん……っ」
顔が一瞬で赤くなる。
逃げるでもなく、腕を振り払うでもなく。
ただ両手が宙に迷う。
悠が少しだけ笑う。
「なに」
「なにって……」
言葉が続かない。
佐藤が割り込む。
「あんた何してんの」
悠はようやく視線を上げる。
腕は外さない。
むしろ、少しだけ引き寄せる。
「彼氏なら、口出していいんだよな?」
少しだけ口角が上がる。
挑発じゃない。
でも余裕。
佐藤の眉が動く。
「……え、朱里、まじ?」
朱里は真っ赤。
でも。
一瞬だけ悠の腕を握る。
小さく。
でもはっきり。
こくん、と頷く。
その仕草を、悠は見ない。
確認しない。
信じてるから。
それがまた余裕。
佐藤が言葉を失う。
「……は?いつから」
「朱里の就活始まる前に捕まえといた」
さらっと。
でも重い。
佐藤が一歩引く。
「……まじかよ」
悠はそこでようやく腕をゆるめる。
でも手は、朱里の手を自然に取る。
指を絡める。
「帰るか」
それだけ。
朱里が見上げる。
「……うん」
まだ顔は赤い。
でも嬉しさが隠れてない。
悠は佐藤をもう見ない。
勝ったからじゃない。
相手にする必要がないから。
歩き出す二人。
朱里が小さく呟く。
「……びっくりしました」
「何が」
「いきなり……あんな」
悠は少しだけ視線を落とす。
「嫌だった?」
「ち、違います……」
小さく首を振る。
マフラーの下まで赤い。
それを見て、悠の目が少しだけ柔らかくなる。
「ならいい」
冬の空気の中。
包み込む背中の感触が、まだ残っている。
佐藤はもう、追ってこない。




