↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/157

32




閉館後の図書館。


さっきまでいた本棚の間を

できるだけ見ないようにする。


見たら、思い出してしまう。


思い出したら、顔が熱くなる。


「……落ち着いて」


小さく自分に言い聞かせる。


カウンターに戻る。


パソコンを閉じる。


鍵を確認する。


いつも通り。


いつも通り、のはずなのに。


指先が少し震えている。


唇に、まだ感触が残っている気がする。


触れただけ。


ほんの一瞬。


それなのに。


(……きす)


思い出した瞬間、顔が一気に熱くなる。


「っ……」


思わず両手で頬を押さえる。


絶対赤い。


絶対赤い。


さっき、どういう顔してたんだろう。


背伸びして。


目、閉じて。


ちゃんと、応えられてた?


「……どうしよう」


小さく呟く。


悠の声が、思い出される。


“後悔しない?”


“これで満足?”


低くて、少し掠れていて。


いつもより近かった。


あんな声、初めて聞いた。


胸がぎゅっと締まる。


自分から言ったのに。


“しないんですか?”


なんであんなこと言ったんだろう。


でも、言わなかったらきっと後悔してた。


悠が大事にしてくれてるのは分かってた。


急がないのも。


ちゃんと待ってくれてるのも。


だからこそ。


少しだけ、欲しかった。


彼氏になった実感。


その証みたいなもの。


廊下を歩く。


靴音がやけに大きい。


出口の前で立ち止まる。


外はもう冬の匂い。


深呼吸して、ドアを開ける。


冷たい空気が頬に触れる。


でも、内側はまだ熱い。


少し先で、悠が待っている。


壁にもたれて、何もなかったみたいな顔で。


その姿を見た瞬間。


また、顔が熱くなる。


「お待たせしました」


声が少し上ずる。


悠がこちらを見る。


ほんの一瞬、目が合う。


その視線が、さっきよりも近い。


逃げたくなる。


でも、逃げたくない。


悠が少しだけ笑う。


「寒いな」


「……はい」


それだけの会話。


でも手が、自然に伸びる。


指先が触れる。


今度は、ためらいなく。


さっきより、少しだけ強く。


朱里は視線を落とす。


唇に触れた感触と、


繋いだ手の温度が重なる。


顔はきっと、まだ赤い。


胸の奥が、静かに満たされている。


“彼氏”


その言葉が、やっと実感を持つ。


冬の空気の中、


二人の距離だけが、確かに近づいていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。