24
講演会は、思ったより静かに終わった。
隣に篠原がいることが、やけに意識に残るだけで。
内容はちゃんと面白かったし、会話も普通にできた。
「面白かったですね」
駅へ向かう歩道。
篠原が言う。
「うん。思ったより具体的だった」
夜風が少し涼しい。
歩道はそれなりに人がいる。
そのとき。
後ろから、甲高いベルの音。
チリン、チリン。
振り返るより先に、体が動いていた。
腕を伸ばす。
篠原の肩に触れて、引き寄せる。
自転車がすぐ横をすり抜ける。
「っ、あぶな……」
息が近い。
距離が、近い。
腕の中。
細い。
思ったより、ずっと軽い。
「あ、ありがと、ございます」
声が少しだけ震えている。
心臓の音がうるさい。
自分のか、相手のか、分からない。
「あ……ごめん」
慌てて腕を離す。
触れていた場所の熱が、妙に残る。
篠原が一歩下がる。
でも、離れすぎない。
頬がうっすら赤い。
夜だから、気のせいかもしれない。
「びっくりしました」
小さく息を吐く。
「すみません、私ぼーっとしてて」
「いや、俺も気づくの遅かった」
無意識だった。
守るみたいに。
守る、って。
なんだそれ。
歩き出す。
さっきより少し距離が近い気がする。
意識していないふりをする。
「悠さん、反応早いですね」
篠原が言う。
「そう?」
「はい」
少し間を置いて、
「頼りになります」
さらっと。
軽く。
でもその言葉が、胸の奥に刺さる。
頼りになる。
それだけで、十分だった。
「……別に」
視線を逸らす。
手が少し震えているのを隠すみたいに
ポケットに突っ込む。
さっきの感触が残っている。
肩の細さ。
体温。
篠原は前を向いたまま、小さく息を整えている。
耳が少し赤い。
気のせいじゃない。
たぶん。
夜風が、少しだけ冷たい。
それでも、さっき触れた場所だけが、妙に熱い。




