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講演会は、思ったより静かに終わった。


隣に篠原がいることが、やけに意識に残るだけで。


内容はちゃんと面白かったし、会話も普通にできた。


「面白かったですね」


駅へ向かう歩道。


篠原が言う。


「うん。思ったより具体的だった」


夜風が少し涼しい。


歩道はそれなりに人がいる。


そのとき。


後ろから、甲高いベルの音。


チリン、チリン。


振り返るより先に、体が動いていた。


腕を伸ばす。


篠原の肩に触れて、引き寄せる。


自転車がすぐ横をすり抜ける。


「っ、あぶな……」


息が近い。


距離が、近い。


腕の中。


細い。


思ったより、ずっと軽い。


「あ、ありがと、ございます」


声が少しだけ震えている。


心臓の音がうるさい。


自分のか、相手のか、分からない。


「あ……ごめん」


慌てて腕を離す。


触れていた場所の熱が、妙に残る。


篠原が一歩下がる。


でも、離れすぎない。


頬がうっすら赤い。


夜だから、気のせいかもしれない。


「びっくりしました」


小さく息を吐く。


「すみません、私ぼーっとしてて」


「いや、俺も気づくの遅かった」


無意識だった。


守るみたいに。


守る、って。


なんだそれ。


歩き出す。


さっきより少し距離が近い気がする。


意識していないふりをする。


「悠さん、反応早いですね」


篠原が言う。


「そう?」


「はい」


少し間を置いて、


「頼りになります」


さらっと。


軽く。


でもその言葉が、胸の奥に刺さる。


頼りになる。


それだけで、十分だった。


「……別に」


視線を逸らす。


手が少し震えているのを隠すみたいに

ポケットに突っ込む。


さっきの感触が残っている。


肩の細さ。


体温。


篠原は前を向いたまま、小さく息を整えている。


耳が少し赤い。


気のせいじゃない。


たぶん。


夜風が、少しだけ冷たい。


それでも、さっき触れた場所だけが、妙に熱い。




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