↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
22/157

22




夕方の図書館は、まだ少し蒸し暑い。


二週間ぶり。


忙しかったのは本当だが

来ようと思えば来られた気もする。


その言い訳を自分でもうまく飲み込めないまま

カウンターを見る。


篠原が、佐藤と話していた。


前より距離が近い。


「就職したら会えなくなるかもしれないんだからさ」


佐藤が笑いながら言う。


「だから今のうちにどっか行こうよ」


「……予定が分からなくて」


曖昧な返事。


はっきり断らない。


はっきり受けない。


その中間。


悠は立ち止まる。


割って入る理由はない。


前みたいに困っているわけでもない。


ただの会話。


ただの誘い。


ただの、同級生。


自分は。


利用者。


数秒、迷う。


それでも足は動かない。


篠原がふとこちらに気づく。


「あ、悠さん」


柔らかい声。


佐藤も振り向く。


「ああ、この前の」


軽く会釈だけする。


何も言わない。


何もできない。


篠原が少しだけ視線を揺らす。


「今日、久しぶりですね」


「だな」


声が少し硬いのが自分でも分かる。


篠原は少しだけ考える顔をしてから、


「大変ですね」


と静かに言う。


それだけ。


心配でもなく、


引き止めでもなく、


ただの事実。


悠の胸の奥が、じわっと冷える。


いなくても、変わらない。


自分が来なくても、


篠原の時間はちゃんと進んでいる。


佐藤が笑う。


「ほら、だから今のうちだって」


篠原は少しだけ眉を寄せる。


「また今度ね」


やんわり。


でも今日は断った。


その瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなる。


――断ったのは、俺のためじゃない。


分かってる。


でも。


分かってるのに。


悠はカウンターに本を置く。


返却手続き。


距離はいつもと同じ。


それなのに、今日はやけに遠い。


「……内定、出たら教えてくださいね」


篠原がぽつりと言う。


「お祝いします」


その一言で、


胸が強く揺れる。


お祝い。


まだ終わっていない。


まだ、繋がっている。


佐藤の存在が、初めて現実味を帯びる。


奪われるかもしれない、じゃない。


――自分が何もしなければ、ただ通り過ぎるだけ。


八月の終わり。


悠は初めて、


“焦り”ではなく


“決めなければいけない”という感覚を知る。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。