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閉館後。
図書館の明かりが少し落ちる。
同級生の佐藤くんがまだ残っていた。
「さっきのさ」
軽い調子のまま。
でも声が少しだけ硬い。
「なに?」
朱里は書類をまとめながら答える。
「あの利用者の人と付き合ってんの?」
一瞬、手が止まる。
「……そんなんじゃないよ」
自然に返す。
本当に、そんなんじゃない。
佐藤くんが鼻で笑う。
「どうだか」
「え?」
「しょっちゅう俺の邪魔してくるしさ。
どうせあいつも朱里目当てなんだろ」
胸の奥が、少しだけざわつく。
“目当て”。
その言い方。
「そんなふうに言わないで」
思ったより早く言葉が出た。
「いや、だってさ」
「悠さんは、そんな人じゃないよ」
言い切る。
迷わず。
「ずいぶん庇うじゃん」
庇う、のか。
朱里は少し考える。
さっきの場面が浮かぶ。
自然に間に入ってくれたこと。
責めるでもなく、
ただ「大丈夫か」って聞いてくれたこと。
押しつけない優しさ。
あれは――
「庇うとかじゃない」
小さく首を振る。
「ちゃんとしてる人だから」
言ってから、自分で少し驚く。
ちゃんとしてる。
なんでそんな言葉が出たんだろう。
「ふーん」
少しだけ不機嫌そうに。
「まあいいけどさ。飲みは来いよ?」
「……考えとく」
さっきよりも、少しだけはっきり。
佐藤くんが帰ったあと、
朱里はカウンターに手を置いたまま立ち尽くす。
ちゃんとしてる人。
なんで、あんなに自然に言えたんだろう。
付き合ってない。
好きかどうかも、まだ分からない。
でも、
“そんなふうに言わないで”
って言ったときの自分の声は、
思っていたより強かった。
胸の奥に、じんわり残る。
さっきの
「無理すんな」
低い声。
守られた、というより。
見られていた。
ちゃんと。
朱里は小さく息を吐く。
夏の夜の空気は、少しだけ重い。
まだ恋とは呼ばない。
でも、
あの人を悪く言われるのは、嫌だと思った。
それだけは、はっきりしていた。




