20
冷房の効いた図書館は、外の暑さを忘れさせる。
夏休み前で利用者は少なめ。
カウンター横で、篠原が誰かと話している。
ああ、あの同級生。
ラフな格好で、距離が近い。
「今度の飲み会来るだろ?」
軽い調子。
篠原は少し困った顔をしている。
「飲みとかはちょっと苦手だし…」
声はやわらかいけど、はっきり断ってはいない。
「みんな来るし朱里も来いよ、な?」
呼び捨て。
距離が、近い。
篠原がうーん、と曖昧に笑う。
断りきれない顔。
ああ、そういうの苦手なんだろうな。
気づいた瞬間、足が動いていた。
「篠原、今ちょっといい?」
二人の間に立つように、自然に。
声は落ち着いている。
篠原だけを見る。
「この本のことなんだけど」
手に持っていた資料を軽く持ち上げる。
口実なんてなんでもいい。
篠原が一瞬驚いた顔をする。
それから、すぐに頷く。
「あ、はい。ごめんね、また今度」
「おー、了解」
と肩をすくめて去っていく。
静かになる。
篠原がこちらを見る。
さっきより少しだけ近い。
「ありがとうございます」
小さな声。
「別に」
本を開くふりをする。
「さっきの、大丈夫か?」
自分でも驚くくらい自然に出た。
篠原が瞬きをする。
「え?」
「飲み会」
目を逸らさない。
責めるでもなく、探るでもなく。
ただ確認。
篠原は少しだけ考えてから、笑う。
「苦手なんです。ああいうの」
「断れよ」
つい言う。
少し強めに。
言ってから、ほんの少しだけ後悔する。
篠原は怒らない。
「はい」
素直に頷く。
「今度から、ちゃんと」
その言い方が妙にまっすぐで、
胸の奥が静かに熱を持つ。
「……無理すんな」
篠原が一瞬、目を見開く。
それから、小さく笑う。
「はい」
その「はい」が、いつもより柔らかい。
自分はただ、割って入っただけだ。
大したことじゃない。
でも。
さっきの困った顔が消えている。
それだけで充分だ。




