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六月。
梅雨前の湿った空気。
就活は思ったより順調だった。
一次、二次、最終。
面接で言葉に詰まることもなく、
研究内容も評価される。
嬉しくないわけじゃない。
でも浮かれてる暇もない。
まだ何も決まってない。
久しぶりに図書館へ向かう。
カウンターに篠原がいる。
「悠さん」
「最近、よくスーツですね」
「まあな」
「いくつか最終残ってる」
自慢する気はない。
事実だから言うだけ。
篠原が少し目を丸くする。
「すごいですね」
その言葉に、胸の奥が少しだけくすぐったくなる。
「準備はちゃんとしたからな」
本音。
運だけじゃない。
でも誇るつもりもない。
「ただ、合うかどうかは別だろ」
篠原は静かに聞いている。
「行きたいところ、決まってるんですか?」
少し考える。
「いや」
正直に言う。
「条件だけで決めたくない」
自分でも少し意外な言葉だった。
「三年、四年じゃなくて、その先考えるだろ」
軽く言ったつもりだった。
でも篠原の指先が一瞬止まる。
「ちゃんと、続けられるかどうかで決めたい」
篠原はしばらく黙る。
それから、ゆっくり言う。
「悠さんらしいですね」
「らしい?」
「はい」
少しだけ笑う。
「ちゃんと考えてます」
胸の奥が、静かに熱を持つ。
評価されたわけじゃない。
褒められたわけでもない。
ただ、
理解された。
それだけで十分だった。
「篠原は?」
何気なく聞く。
「将来、どうしたいとか」
篠原は少し視線を落とす。
「今の場所が好きなので」
短い答え。
でも嘘はない。
悠はうなずく。
「それでいいだろ」
自然に出た言葉。
「好きな場所、守れるなら」
篠原がこちらを見る。
ほんの少しだけ、目が揺れる。
でもすぐに戻る。
「応援してます」
静かに言う。
「悠さんが、納得できるところに行けるように」
図書館を出ると、少しだけ雨の匂いがした。




