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四月。
研究室の空気も変わる。
就活の話題が増える。
スーツ姿の学生がやたらと目につく。
悠も例外じゃない。
説明会。
エントリーシート。
研究との両立。
気づけば、図書館へ向かう事が減っていた。
週に三回は行っていたのが、週に一回。
行けないわけじゃない。
ただ、帰りが遅いとか、疲れてるとか。
言い訳はいくらでもあった。
でも本当は、
会ったら、落ち着かなくなるからだ。
久しぶりに図書館に入る。
扉の向こうは、相変わらず静かだった。
カウンターを見る。
篠原は、いつも通りそこにいた。
目が合う。
一瞬だけ、柔らかく笑う。
「お久しぶりですね」
その一言で、胸の奥の緊張がほどける。
「……そうだな」
敬語はもうない。
それだけで、少しだけ近い。
でも前みたいに長居はできない。
スーツのまま、参考書を一冊返却する。
「最近、あまり見かけなかったので」
篠原が静かに言う。
責める声ではない。
ただ事実を述べているだけ。
「就活、始まって」
できるだけ軽く言う。
篠原は少しだけうなずいた。
「そうなんですね」
それだけ。
寂しさも、引き止めもない。
「大変ですよね」
静かで、穏やかな声。
いつも通り。
変わらない。
それが、少しだけざわつく。
自分の中では、何かが動いているのに。
篠原は何も変わらない。
それが当たり前なのに、
なぜか少し怖い。
「まあ、忙しくはなるな」
「無理しないでくださいね」
軽い言葉。
でもちゃんと届く。
距離は保たれたまま。
近づきすぎない。
離れもしない。
悠はふと気づく。
このまま就活が本格化したら、
ここに来る時間はもっと減る。
篠原と話す機会も。
それでも、篠原は変わらないだろう。
いつも通り、そこにいる。
自分が来なくなっても。
その想像が、妙に落ち着かない。
春の空気は少し暖かくなっている。
ポケットのスマホが震える。
就活関連の通知。
返信しなきゃいけない。
やることは山ほどある。
でも頭の奥に残っているのは、
「そうなんですね」
の静かな声だった。




