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数日後。
図書館はいつも通り静かだった。
閉館まではまだ時間がある。
篠原はカウンターの内側で、返却本を整えている。
悠は本を一冊抱えたまま、少しだけ立ち止まる。
小さな紙袋。
春色のリボン。
たったそれだけで、やけに落ち着かない。
展示会のあと、
何事もなかったみたいにメッセージは続いた。
でも、あの日の空気は確実に残っている。
返却カウンターに本を置く。
篠原が顔を上げる。
「悠さん」
敬語は少しだけ柔らかい。
「これ、返却」
「はい」
いつも通りのやり取り。
そのあと、少しだけ間。
「篠原」
呼ぶ。
篠原が手を止める。
「はい?」
「この前のチケットのお礼」
「え?」
「たいしたものじゃないけど」
カウンター越しに差し出す。
篠原が戸惑う。
「いえ、そんな……」
「行きたかったやつだし」
事実だ。
篠原がきっかけをくれた。
でも、行きたかったのは本当。
「本当に、たいしたものじゃない」
軽く言う。
実際、高くない。
でも色はちゃんと選んだ。
淡いピンクと、薄いグリーン。
春っぽいやつ。
篠原は数秒迷ってから、そっと受け取る。
「……ありがとうございます」
少しだけ頬が赤い。
「甘いの、平気?」
「はい」
小さく笑う。
「好きです」
その言い方が、なんかやけに柔らかい。
袋のリボンを指先で触れている。
「マカロンですか?」
「うん」
「春ですね」
その一言で、胸の奥が静かに熱くなる。
春ですね。
あの日の帰り道と、同じ温度。
「篠原」
「はい」
名前を呼ぶだけで、空気が少し変わる。
「また、なんかあったら教えて」
展示でも、本でも。
理由はなんでもいい。
篠原は少しだけ考えてから、頷いた。
「……はい」
利用者と司書。
それだけじゃない。
でもまだ、はっきりしない。
カウンター越し。
今日も、前より少し近い。




