↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
16/157

16




数日後。


図書館はいつも通り静かだった。


閉館まではまだ時間がある。


篠原はカウンターの内側で、返却本を整えている。


悠は本を一冊抱えたまま、少しだけ立ち止まる。


小さな紙袋。


春色のリボン。


たったそれだけで、やけに落ち着かない。


展示会のあと、

何事もなかったみたいにメッセージは続いた。


でも、あの日の空気は確実に残っている。


返却カウンターに本を置く。


篠原が顔を上げる。


「悠さん」


敬語は少しだけ柔らかい。


「これ、返却」


「はい」


いつも通りのやり取り。


そのあと、少しだけ間。


「篠原」


呼ぶ。


篠原が手を止める。


「はい?」


「この前のチケットのお礼」


「え?」


「たいしたものじゃないけど」


カウンター越しに差し出す。


篠原が戸惑う。


「いえ、そんな……」


「行きたかったやつだし」


事実だ。


篠原がきっかけをくれた。


でも、行きたかったのは本当。


「本当に、たいしたものじゃない」


軽く言う。


実際、高くない。


でも色はちゃんと選んだ。


淡いピンクと、薄いグリーン。


春っぽいやつ。


篠原は数秒迷ってから、そっと受け取る。


「……ありがとうございます」


少しだけ頬が赤い。


「甘いの、平気?」


「はい」


小さく笑う。


「好きです」


その言い方が、なんかやけに柔らかい。


袋のリボンを指先で触れている。


「マカロンですか?」


「うん」


「春ですね」


その一言で、胸の奥が静かに熱くなる。


春ですね。


あの日の帰り道と、同じ温度。


「篠原」


「はい」


名前を呼ぶだけで、空気が少し変わる。


「また、なんかあったら教えて」


展示でも、本でも。


理由はなんでもいい。


篠原は少しだけ考えてから、頷いた。


「……はい」


利用者と司書。


それだけじゃない。


でもまだ、はっきりしない。


カウンター越し。


今日も、前より少し近い。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。