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それからの話は、驚くほど早く進んだ。
遥花さんが言っていた駅前のマンションは、
本当にもうすぐ完成らしくて。
気づけば、部屋の中には段ボールが増えていた。
「本ってこんなにありました?」
箱に詰めながら思わず呟く。
「朱里のだろ」
「…悠さんの服も多いです」
振り返ると悠さんが少しだけ笑う。
その顔を見て、なんだか安心する。
箱のふたを閉じて、
テープを貼る。
少しずつ、
部屋に隙間ができる。
寂しいような、
でもどこか軽くなるような、
不思議な気持ちだった。
「澪花ちゃん、喜びそうですね」
「毎日遊びに来そうだな」
「それはそれで楽しそうです」
笑いながら、
次の段ボールを引き寄せた。
新しい部屋は、
まだ少しだけ匂いが違った。
家具も少なくて、
声が少し響く。
窓を開けると、
ひんやりした空気が入ってくる。
遠くで電車の音がした。
「駅前なのに、静かですね」
「夜は特にだな」
悠さんがカーテンをつけながら言う。
段ボールを開けていると、
冷蔵庫の中に小さな袋が入っているのに気づく。
「悠さん」
「ん」
袋を持ち上げる。
「アイス、買ってきてくれたんですか」
「引越し祝い」
「真冬ですよ」
「お前が言ったんだろ」
思わず笑ってしまう。
「食べます?」
「……食う」
まだ何もないリビングで、
床に座る。
袋を開けて、
アイスを取り出す。
「寒くないですか」
「寒いな」
「じゃあ、半分こしましょう」
スプーンを渡すと、
悠さんが少しだけ困った顔をする。
「子どもか」
「引越し祝いです」
小さく笑いながら、
アイスをすくう。
窓の外の空気は冷たいのに、
不思議と、
部屋の中はあたたかかった。




