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玄関のインターホンが鳴る。
扉を開けると
遥花さんと湊さん。
その足元で
澪花ちゃんが元気よく手を振っていた。
「みおかきたよ!」
「荷解きまだかと思って
ご飯、持ってきたよ」
「おじゃまします!あ、ゆうくん!」
澪花ちゃんは悠さんを見つけて抱きついている。
抱きつくというより、まとわりついていて
思わず笑顔になってしまう。
「ごめんね、騒がしくて」
「いえ、楽しいです
2人も入ってください、お茶くらいなら出せます」
「お邪魔します」
お茶をダイニングに置いていると
澪花ちゃん用の椅子がないことに気づく。
「椅子、買わないとですね」
「だな」
「みおかの!?みおか、ぴんくがいい!」
「この部屋にピンクは合わないんじゃない?」
遥花さんが部屋を見渡す。
確かに、この家にピンクは合わなそうだ。
「却下」
すかさず悠さんが却下する。
くすくすと笑いがこぼれる。
こんなふうに笑ったのは
久しぶりな気がした。
澪花ちゃんが床にごろんと寝転がり
手足をばたばたさせる。
「やだやだぴんく!!」
お手本みたいな駄々に、
部屋が笑いで満ちる。
「まま、ねむい…」
澪花ちゃんが眠そうに目を擦る。
湊さんが抱き上げる。
玄関で見送り、ドアが閉まる。
静かになった部屋。
前は苦しかったそれが、
今は何故か平気だった。
「風呂、先入るか?」
「悠さんどうぞ。私片付けします」
「明日でいい」
「でも」
袋や容器を見下ろす。
遥花さんたちが持ってきてくれたご飯の残り。
まだ少しだけ、
人の温度が残っている気がした。
「……一緒にやるか」
そう言って、悠さんが袖をまくる。
思わず笑ってしまう。
「はい」
テーブルの上を片付けながら、
ふと窓の外を見る。
街灯の光が少しだけ揺れている。
新しい部屋。
新しい匂い。
まだ家具も少なくて、
声が少し響く。
「澪花ちゃん、元気でしたね」
「ああ」
皿を流しに運びながら、
悠さんが小さく頷く。
手を伸ばしてお皿を受け取ると
指先が少し触れる。
ほんの一瞬。
それだけなのに、
胸の奥が少し温かくなる。
「風呂、入るか」
「はい」
廊下は少し冷えていた。
湯気の上がる浴室で、ふと思う。
今日一日、
子どもの声がして、
笑って、
ご飯を食べて、
みんなで話して、
ただそれだけのことなのに
胸の奥にあった重さが、
少しだけ軽くなっている。
湯船に肩まで浸かる。
新しい家の天井を見上げながら、
小さく思う。
明日も、
きっと大丈夫。




