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「次、いつから出来るんでしょうか」
意味が、分からなかった。
朱里はソファの端に座っている。
背筋を伸ばして、手は膝の上で重なっていた。
落ち着いている。
静かすぎるくらいに。
「……朱里」
名前を呼ぶ。
それでも胸の奥のざわつきは消えない。
朱里は小さく頷く。
「話は理解しました」
視線を落としたまま続ける。
「赤ちゃん、だめだったんですよね」
少しだけ間が空く。
それでも、声は揺れない。
「なら尚更、次に行かないと」
「朱里」
「身体的に期間空けた方が良いんでしょうか」
朱里の指先がわずかに動く。
それだけだった。
「悠さんはどう思いますか?」
まっすぐ聞いてくる。
答えを待つ顔。
言葉が出ない。
子ども。
最初に話を切り出したのは自分だ。
澪花を抱いたときも、
未来の話をした夜も、
確かに欲しいと思っていた。
でも。
今、目の前にいる朱里の方が
ずっと大きい。
比べるものじゃない。
分かっている。
それでも、
「……もう、やめよう」
「え……?」
「子どもがいなくても十分だろ」
「悠さん、何言って……」
「俺は朱里がいればそれでいいよ」
朱里は一瞬黙る。
それから、ゆっくり首を振った。
「……何、言ってるんですか」
声が少しだけ強くなる。
「何年も頑張って、やっとここまできたんです」
「まだ一回目ですよ」
息を吸う。
「次やればきっと――」
そこでやっと気づく。
朱里は悲しんでいない。
一度も、
泣いていない。
ただ前に進もうとしている。
止まれないみたいに。
ああ、
気づくのが遅すぎた。
このまま進ませたら
朱里はきっと、
どこまででも行ってしまう。
手を伸ばす。
逃がさないように、
壊れないように、
朱里の身体を腕の中へ引き寄せる。




