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内診室の照明は少し暗い。
モニターの光だけがはっきりしている。
診察台に横になったまま、画面を見ていた。
黒い画面の中に小さな白い影。
医師が機械を動かすたびに、画面がゆっくり揺れる。
少しして医師の手が止まり沈黙が落ちる。
医師は何も言わない。
代わりに機械を外す。
「一度お着替えいただいて
診察室でお話ししましょう」
「……はい」
着替えながらさっきのモニターを思い出す。
小さな影は、確かにあった。
だから大丈夫。
診察室に戻ると、悠が椅子に座っている。
「どうだった?」
「まだ何も」
隣の椅子に座る。
医師がパソコンで画像を開く。
さっきのエコー画像だ。
黒い丸の中に、小さな影。
医師が静かに言う。
「胎芽は確認できています」
ほっと息が抜ける。
「ただ——」
一瞬、言葉が止まる。
「心拍が確認できません」
心拍。
意味がうまく繋がらない。
「……まだって意味ですか?」
医師は穏やかな顔のまま、少しだけ首を横に振る。
「今回は受精のタイミングから管理していますので」
画面を指さす。
「今の週数であれば
本来はこのあたりに、動きが確認できます」
小さな影。
「来週とかなら……見えるようになりますか?」
声が少しだけ早い。
医師は言葉を選ぶように続ける。
「残念ですが、このまま成長しない可能性が高いです」
朱里の頭の中で、言葉がゆっくり沈む。
成長しない。
その意味を、まだうまく掴めない。
横で悠さんが動く。
「……妊娠してないってことですか?」
医師はすぐに首を振る。
「いえ、妊娠自体は成立しています」
医師は画面をもう一度指さした。
「胎芽はここにあります。
ただ、心臓の動きが見えません」
朱里は画像を見る。
確かにそこにある。
小さな影。
でも、動かない。
医師が続ける。
「この状態を、稽留流産と呼びます」
聞き慣れない言葉が落ちる。
しばらく画面を見ていた。
それから、ゆっくり医師を見る。
「……でも」
声は小さい。
「こないだまで、順調って言ってましたよね」
医師は頷く。
「胎嚢や胎芽の大きさは問題ありませんでした」
穏やかな説明。
「ただ、心臓の動きが確認できません」
何を言えば良いのかわからない。
診察室のモニターには、エコー画像が映ったまま。
小さな影がそこにある。
確かに、そこにあるのに。




