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陽性が分かってから
朱里はよく喋るようになった。
食事の途中でもふと思い出したように口を開く。
「悠さん」
「ん」
「性別どっちだと思います?」
「……まだ早いだろ」
「ですよね」
笑いながら、視線は楽しそうだ。
「悠さんはどっちがいいですか?」
「どっちでも」
少し考えてそう答えると
「ですよね」
と、朱里はくすくす笑う。
「澪花ちゃんが女の子だから男の子もいいですね」
箸を動かしながら、独り言みたいに続ける。
「でも女の子も可愛いですよね」
「……どっちでも可愛いだろ」
「そうなんですけど」
少しだけ考えてから、
「じゃあ半分半分ですね」
と満足そうに頷く。
意味はよく分からないが
本人はそれでいいらしい。
しばらくして、また声がする。
「悠さん」
「ん」
「さっき計算してたんですけど」
今度はスマホを見ている。
「もし四月生まれだったら、澪花ちゃんと五歳差なんですよ」
「小学校は被りますね」
少しだけ嬉しそうな声。
「……そうか」
「澪花ちゃん、面倒見てくれるかな」
笑いながら言う。
想像している顔だった。
まだ何も決まっていないのに、
もうそこまで先を見ている。
「五歳差ってちょうど姉弟みたいですよね」
スマホを見ながら続ける。
「遥花さん、喜んでくれますかね」
その言葉に頷く。
遥花なら自分のことのように喜ぶだろう。
朱里は楽しそうに話している。
未来の話ばかりだ。
性別。
誕生日。
年齢差。
学校。
どれもまだ何も決まっていない。
それでも朱里は、疑っていない。
当たり前みたいに。
「名前とか考えます?」
突然そう言われ思わず顔を上げる。
「……もうか」
「まだ早いですか?」
「早い」
そう言うと、朱里は少しだけ笑った。
「ですよね」
でもスマホは閉じない。
何かを検索している。
たぶん、もう見ているんだろう。
しばらくしてふっと顔を上げる。
「でも」
「ん」
「やっぱりまだ実感ないですね」
そう言いながら笑った。
不安そうではない。
ただ不思議そうな顔。
「夢みたいです」
その言葉を聞いて少しだけ頷く。
「……そうだな」
朱里はまた笑う。
それから、何気ない声で言う。
「悠さん」
「ん」
「ちゃんと大きくなりますかね」
質問なのか、独り言なのか分からない声だった。
少しだけ考える。
答えは決まっていた。
「なるだろ」
そう言うと、
朱里は安心したみたいに頷いた。
「ですよね」
それから、また笑う。




