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陽性と聞いた帰り道から

朱里の様子は少し変わった。


朝、目が合うと笑うようになった。


体調の報告が増えたし


「これ、食べても大丈夫ですかね」

なんて食べる物を気にするようになった。


大丈夫だと思う、と答えると


「ですよね」


と、嬉しそうに頷く。


そのやり取りが一日に何度かある。


仕事から帰ると、ソファに座った朱里が顔を上げる。


「おかえりなさい」


声が少し明るい。


今日は体調がいい日なんだろう。


「可愛くないですか?」


そう言ってスマホを差し出してくる。


小さな服の写真だった。


「まだ早いですよね」


言いながら、楽しそうに笑う。


「……早いな」


そう答えると、


「ですよね」


また同じ顔で笑う。




「胎嚢、見えるんですかね」


朝、トーストを食べながら朱里が言う。


不安というより、期待の声だった。


「見えるんじゃないか」


そう答えると、


「ですよね」


と、また頷く。


何度も同じ返事をしている気がする。


それでも朱里は気にしていない。


ただ嬉しそうにしている。


待合室の椅子に並んで座る。


朱里はしきりに指輪を回していた。


「悠さん」


「ん」


「見えますかね」


何度もしたやりとり。


でも、


「見えるだろ」


と答える。


「ですよね」


名前が呼ばれ二人で立ち上がる。


見慣れた画面。


先生の声が聞こえる。


「確認していきますね」


朱里がモニターを見ている。


黒い画面の中に、白い影が動く。


「ここですね」


小さな丸。


「胎嚢、確認できます」


その瞬間、朱里の身体がぴくっと動いた。


「……あ」


小さな声。


でも、はっきり聞こえた。


「順調ですね、大きさも問題ありません」


朱里は何度か頷いていた。




廊下に出た瞬間、朱里が振り返る。


「悠さん」


「ん」


「ありました」


声が少し弾んでいる。


「ちゃんと、ありました」


子どもみたいな顔。


「……そうだな」


そう答えると、


朱里は満足そうに頷いた。


「よかったですね」


本当に嬉しそうだった。


その顔を見ていると、


こっちまで笑いそうになる。


「悠さん」


「ん」


「なんか、まだ実感ないですね」


そう言いながら、また笑う。


夏の空気が少し暑い。


朱里が一歩先に歩き出す。


「ご飯、どうします?」


「……今それか」


「だってお腹すきました」


それから少しだけ考える顔をして、


「今日はなんでも食べていい気がします」


そう言い笑う。


「それは違うだろ」


「ですよね」


また同じ返事をする。


その顔が、いつもより少しだけ明るかった。




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