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テレビの音が部屋に流れている。


ソファに座ったまま、手元の資料に目を落とす。


ページをめくる音と

キッチンから聞こえる水の音が重なる。


朱里が食器を洗っている。


いつもと同じ光景。


「それ、もう終わります?」


「ああ、あと少し」


そう答えると、分かりました、と返ってくる。


それ以上の会話は続かない。


水を止める音。


布巾で拭く気配。


足音が近づいて、隣に腰が下りる。


ソファがわずかに沈む。


自然な距離。


前と変わらないはずなのに、ふと意識してしまう。


何が、とは言えない。


ただ一度気づいてしまった違いを

無意識に探している自分がいる。


テレビの中で誰かが笑う。


朱里も小さく笑った。


その声に、少しだけ肩の力が抜ける。


大丈夫そうだな、と思う。


無理をしている様子もない。


体調を気にする素振りも減った。


普通に食べて、普通に眠って、普通に過ごしている。


それでいいんだろう、たぶん。


資料を閉じる。


「お風呂、先入っていいですよ」


「ああ」


立ち上がると

朱里がリモコンを取って音量を少し下げた。


その仕草が妙に自然で、視線を向ける。


「どうしました?」


「……いや」


なんでもない、と首を振る。


本当に、なんでもなかった。


少なくとも、そう思えた。


廊下へ向かいながら


胸の奥に残っていた張りつめた感覚が

少しだけほどけていることに気づく。


あの日から続いていた何かが、

ようやく落ち着いてきた気がした。


理由は分からない。


でも、このまま戻っていくのかもしれない。




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