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朱里はすぐには答えなかった。
視線を落とし、膝の上で指先をそっと重ねる。
考えているというより
言葉の形を整えているみたいだ。
小さく息を吸い、顔を上げる。
視線が合う。
逃げない目だった。
「……考えてみたんですけど」
声は落ち着いている。
揺れはない。
「やってみようと思います」
言葉が静かに落ちる。
強くもなく、弱くもない。
決意というより事実みたいだった。
何か言わなければいけない。
でも、どの言葉も少し違う。
止めるのか。
背中を押すのか。
どちらも、正しい気がしない。
短い沈黙が落ちる。
その間、朱里は目を逸らさない。
揺れていない目だった。
もう決めている目。
俺だけが、今ここで選ぶ側に立たされていると分かる。
ゆっくり息を吐く。
逃げ道を探すのをやめる。
「……分かった」
それ以上、言葉は続かない。
賛成でも、
反対でもない。
ただ、受け取った。
視線が絡んだままどちらも動かない。
部屋は静かだ。
何かが始まったのか、
終わったのか、
分からないまま。
でも、もう戻らないことだけは分かっていた。




