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テレビを消すと、部屋が急に静かになった。
さっきまで流れていた音がなくなるだけで
空気が広く感じる。
朱里は隣でスマホを置き、軽く伸びをした。
「もうこんな時間なんですね」
「ん」
短く返す。
それで会話は終わるはずだった。
立ち上がろうとして、動けない。
何度も同じ夜を過ごした。
何度も、今なら聞けると思った。
そのたびにやめた。
理由は分からない。
ただ、言葉にした瞬間
戻れなくなる気がしていた。
でも。
「……朱里」
名前を呼ぶと、すぐに視線が向く。
「はい?」
いつもと同じ返事。
穏やかな声。
逃げ場がなくなる。
一度息を吐く。
何から言えばいいのか分からない。
「……この前の、病院の話だけど」
言いながら、自分の声が少し低いことに気づく。
朱里は急かさない。
ただ待っている。
それが余計に緊張を強くした。
沈黙が落ちる。
数秒なのに長い。
「……そろそろ、ちゃんと話した方がいいよな」
言葉を選んだつもりなのに、まとまらない。
本当は聞きたいことがある。
でも何を聞けばいいのか分からない。
どうしたいのか。
続けたいのか。
やめたいのか。
どれも簡単に口にできない。
視線を落としかけて、やめる。
逃げたくなかった。
「朱里は……どう思ってる」
問いというより、確認に近かった。
自分でも少し頼るような声になっているのが分かる。
答え次第で何かが決まる。
そんな予感だけが、静かに胸に残っている。




