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「……こわいんです」
声が震えている。
「体外受精もだめだったら……」
呼吸が浅くなっている。
「もう、何もない……っ」
視線は上がらない。
「これが、最後の手段なんです……っ」
最後。
その段階まで、来させたのは誰だ。
やめるかと言ったのは自分だ。
守りたいと思ったのも自分だ。
なのに。
目の前で泣いている。
隣にいるのに。
手が届く距離にいるのに。
何も変えられていない。
何を言えばいい。
やめると言えば、奪ってしまう。
続けると言えば、苦しめてしまう。
どれを選んでも朱里は傷つく。
なら、俺は何をしている。
隣にいる意味は。
守れないなら、ここにいる意味は。
その考えが一瞬、胸をえぐる。
喉の奥が詰まる。
息がうまく吸えない。
情けないとかそんな言葉じゃ足りない。
ただ、無力だった。
朱里は怖いと言った。
未来がなくなるのが怖いと。
それなのに、自分は何一つ差し出せない。
どうしたらいい。
分からない。
分からないのに、離れたくない。
このまま、手放したくない。
「……朱里」
名前が落ちる。
声が少し震える。
「朱里」
救える自信なんてない。
ただ、このまま一人で泣かせておけなかった。
腕が伸びる。
強くも、優しくもない。
縋るみたいに抱き寄せる。
守れていないのに。
それでも、失いたくなかった。




