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いつも同じ診察室の空気。


検査結果の説明を聞きながら、朱里は静かに頷く。


数値も、周期も、大きな問題はない。


それも、もう何度も聞いた。


「人工授精も数回試されていますので」


先生がカルテに目を落としたまま言う。


次に来る言葉が分かってしまって

朱里はわずかに指を握った。


「次の段階として、体外受精という方法があります」


やっぱり、と思う。


驚きはなかった。


その言葉を聞くのは、初めてじゃない。


調べたこともある。


成功率も、流れも、費用も。


知っている。


だからこそ、胸の奥が静かに重くなる。


体外受精。


それは“次”じゃない。


ここまで来たんだ、とぼんやり思う。


「もちろん、すぐ決める必要はありません」


先生の声は穏やかだった。


選択肢としての説明。


急かす様子はない。


それでも、引き返せない場所に立った気がした。


「質問はありますか?」


少し考える。


聞きたいことは、もうほとんど知っている。


だから首を横に振った。


「……大丈夫です」


自分の声が思ったより落ち着いている。


診察が終わり、立ち上がる。


椅子が小さく音を立てた。


ドアを開ける直前、ふと考える。


ここから先は、


うまくいくか、終わるかのどちらかなんだ。


その中間は、もうない。


廊下に出る。


いつもと同じ病院の匂い。


なのに、帰る場所が少し遠くなった気がした。




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