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玄関を開けると、キッチンの灯りがついている。


包丁の音。


一定のリズム。


「ただいま」


「おかえりなさい」


エプロンをした朱里が笑う。


いつも通りの顔。


「もうすぐできます」


「急がなくていい」


手を洗いながら時計を見る。


予定日を無意識に計算している自分に気づく。


リビングに戻ると料理が並び始めていた。


皿を置く手が止まらない。


動きが少しだけ早い。


「今日、どうだった」


聞くつもりはなかったのに、口に出ていた。


朱里は一瞬だけ手を止める。


それから、すぐに動かしながら言った。


「……やっぱりだめでした」


小さく笑う。


苦笑いとも違う。


困ったみたいな顔。


「体温下がっちゃって」


さらっと続ける。


報告みたいに。


「そうか」


それしか出ない。


朱里は頷いて、味噌汁をよそう。


「まあ、まだ二回目ですし」


本当に、前向きなつもりなんだと思う。


でも。


“やっぱり”。


その言葉だけが、耳に残る。


期待していた人は、使わない言葉だ。


「いただきます」


いつも通り。


味は変わらない。


会話も続く。


仕事の話。

スーパーの特売。

どうでもいい話。


朱里は普通に笑う。


普通に食べる。


普通に話す。


なのに、


どこか力が入っている気がして、目を逸らす。


気づかないふりをする。


ここで「もうやめよう」と言えば、


朱里はきっと黙る。


そう思った瞬間、喉が詰まる。


言えば、守れるのかもしれない。


でもそれは


朱里が進もうとしているものを、俺が止めることになる。


箸を置く。


言葉が浮かんで、消える。


結局、何も言わない。


朱里が笑う。


「次、頑張りましょう」


その声が、少しだけ掠れていた。


気のせいかもしれない。


味噌汁の湯気が上がる。


向かいに座ったまま、


どうしていいか分からず、


ただ頷いた。




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