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泣いてからも、部屋は静かだった。


片付け途中のリビング。


悠さんは何も言わない。


ただ、腕を回してくれている。


それだけで十分だったはずなのに、


涙はなかなか止まらない。


やっと落ち着いた頃、


「風呂、入れてくる」


低い声が落ちる。


いつもなら、私がやる。


でも今日は立ち上がらない。


キッチンの水音。


食器を洗う音。


さっきまでの散らかりが静かに片付いていく気配。


何もしない自分に少しだけ罪悪感が湧く。


「冷えるぞ」


それだけ言って肩にブランケットをかける。


叱らない。


励まさない。


“無理するな”も言わない。


ただ、当然みたいに世話を焼く。


お風呂から上がると、


ドライヤーがもうコンセントに挿してある。


「座れ」


短い。


後ろから温風が当たる。


髪を梳く手つきがいつもより丁寧だ。


何も言わない。


でも、


手が離れない。


まるで、どこにも行かせないみたいに。


布団に入る。


先に横になっている悠さんが自然に腕を開く。


抱きしめられる。


強い。


守るみたいに。


「……次は、俺の番な」


ぽつりと落ちる。


番。


何の番なのか、説明はない。


でも分かる。


泣いたからとか、


失敗したからとか、


そういうことじゃない。


私が欲しいと言ったから。


それを聞いたから。


その覚悟の番。


胸がじんわり熱くなる。


さっきまで空虚だった部屋が、


少しだけ、戻る。


子どもはいない。


未来も、まだ見えない。


それでも。


腕の中は、確かだ。


欲しい、と言ってしまった夜の続きで、


悠さんは何も約束しない。


でも、


逃げない。


そのことが、


思ったより大きい。




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