106/157
106
六月。
「明日、注射です」
夕飯を作りながら言う。
「何時?」
「十八時半」
「迎えいるか?」
「大丈夫です」
やり取りは短い。
最初の頃みたいに注射どうだったとか
痛くなかったとか、あまり言わなくなった。
痛みは、慣れる。
七月。
「今週ですね」
カレンダーを見ながら言う。
「了解」
それだけ。
前は少し照れがあった。
今は、確認。
夜。
触れる。
愛情はある。
でも、始まりが自然じゃない。
どちらかがきっかけを作るわけでもなく、
「今日だよな」
で始まる。
それでも笑う。
「業務連絡みたいですね」
「だな」
笑って終わる。
八月。
「旅行どうする?」
「その週、排卵近いかもです」
「あー」
数秒考える。
「じゃあ翌週にするか」
簡単に変更する。
不満はない。
優先順位が少し変わっただけ。
それだけのはず。
生理。
来る。
カレンダーに印をつける。
ため息は出ない。
泣きもしない。
「次ですね」
口癖みたいになる。
ある夜、ふと気づく。
排卵日の前後しか、触れていない気がする。
思い返しても、
ただ一緒にいたくて触れた夜が、思い出せない。
でも、困ってはいない。
喧嘩もしていない。
会話もある。
笑っている。
ただ、
“目的のない夜”が減っただけ。
夏が終わる。
気づけば、九月が近い。
何かが削られている。
きっと、
二人の間にあった、少しの余白の部分。
それでもまだ、壊れてはいない。
まだ、やれている。




