101
空気が澄んでいて、吐く息が白い。
悠さんの実家へ向かう道は
何度も通っているのに、正月は少しだけ特別に見える。
角を曲がったところで、声が聞こえた。
「あ、悠」
遥花さんと、その隣に湊さん。
そして、小さなダウンコート。
「澪花ちゃん」
思わず声が弾む。
自分で歩いて、ちゃんと会話ができる
赤ちゃんではなくなった澪花ちゃん。
「みて!」
得意げに小さな袋を見せる。
「よかったですね」
しゃがんで目を合わせると、目の高さが近い。
去年より、ずっと。
湊さんが自然に手を伸ばして、澪花ちゃんの帽子を直す。
遥花さんは少し離れたところから笑って見ている。
その空気が、やわらかい。
“親”の顔。
意識しなくても分かる。
特別なものじゃない。
当たり前の空気。
「またね」
「また」
別れて歩き出す。
胸の奥が、ほんの少しだけざわつく。
羨ましい、とは少し違う。
ただ、
時間がちゃんと形になっているのを、目の前で見た感じ。
「あけましておめでとう」
いつもの声。
いつもの匂い。
何も変わらない。
上がって、お茶を出してもらって、近況を話す。
誰も、何も言わない。
子どものことも、治療のことも。
本当に、いつも通り。
それなのに。
悠さんが何気なく言う。
「そういえばさっき遥花に会った」
「うちにも挨拶来てくれたわよ、元気で可愛いわよね」
笑いながら言う。
悪意なんてない。
ただの世間話。
「二歳でしたっけ」
私も自然に混ざる。
「そうそう。早いわよねえ」
早い。
その言葉が、少しだけ残る。
早い。
二歳。
踏み出してから、一年と少し。
数字が、頭の中で並ぶ。
誰も比べていない。
比べているのは、自分だ。
湯呑みを持つ手に、少しだけ力が入る。
何も言われていない。
急かされてもいない。
それでも、
“元気で可愛い”
当たり前の会話が、今の私には少しだけ棘になる。
ちゃんと笑えている。
でも、
ほんの小さな痛みが、胸の奥に残ったままだった。




