87.何かお探しでないときはどうしたらいいんだろうね?
「色々あるんだな」
「そうだねぇ……」
どんな難所も最初の一歩さえ踏み出してしまえば案外何とかなるものなのかもしれない。
結局俺と虎子は、美咲と一緒に行ったのと同じブランドのショップに足を踏み入れ、普通に店内を見て歩いていた。
俺の予想通り、一度だけ店員さんに「何かお探しですか?」という声をかけられたものの、「あ、大丈夫です。何かあったら聞きますので」という俺の対応で、あっさりと引き下がってくれた。
正直俺からすると、ショップ店員というのはとにかく「何か買え」という圧力をかけてくるもののイメージが強かったから、結構意外だった。
一回で引き下がってくれること自体は想定通りだけど、割と物腰が柔らかかった。意外といい人なのかもしれない(※笹木華は優しくされるとつい好きになっちゃうタイプの性格をしています)
虎子が店内のアクセサリーを手に取って、
「これ、美咲がつけてた気がする」
「ホント?」
「ほんとほんと。はぁ~……ここで買ってたんだな」
そう感心する虎子。その様子は先ほどよりも「いつもの虎子」っぽい。
よかった。さっきのしおらしい姿も嫌いではない(というか正直ちょっと好き)だけど、やっぱりこっちの方が接しやすい。
こっちに来てから接する女子は(一部を除いて)俺に好感的だから、忘れがちだけど、元々俺は男だ。
しかも俺は、女子とこうして会話をすることにはどっちかっていうと心的抵抗感のある方だ。はっきりいって緊張する。何かおかしなことを口走ってないかは常に気になってるし、女の子特有の話題なんて振られようものならしどろもどろになる自信がある。
だから、虎子の勝気だったり、趣味が男っぽかったりする部分は俺からすると助かるし、嬉しい。忘れていた感覚が蘇っていくような気がする。
そもそも俺に男らしい趣味があったかどうかもよく覚えてないんだけどね。覚えていることと言えば百合に対する愛情くらいなもんで。
そんなことを考えていると虎子はアクセサリーを一つ手に取って、
「うーん…………」
「どうしたの?」
「いや、うん、なんでもない」
なんでもないはずはない。
俺がずっと他のことを考えている間、虎子はアクセサリーとにらめっこをしていたはずである。その上で「なんでもない」なんてことはありえない。絶対に何かを考えたし、そこには悩みがあるはずだ。
気になった。
とはいえ、これ以上「何かあったんじゃないの?」なんて話の振り方をしても、きっとはぐらかされてしまうだろう。
一か八だ。
俺は思いつく仮説を取り合えずぶつけてみる、
「えっと…………もしかして、つけてみたい、とか?」
虎子はあからさまに動揺して、
「ば、ばっか。そんな、そんなわけないだろ?俺が、こんな、なあ?美咲ならともかく。ありえないって」
といいつつ、手に持っていたアクセサリーを。何故か近くにあったマネキンの頭に欠けようとする。分かりやすいにもほどがある。
今日一日接してて分かった。
虎子もちゃんと、女の子なのだ。
そして、恋愛にだって興味はあるんだ。
だけど、その気持ちを封印しているだけなんだ。
八代が言っていた。虎子は頭が良いから色々考えてしまうのだと。だから、たまには考えないで動いたほうがいいと。その見立てはきっと間違いではないんだと思う。
とはいえ、実際に虎子がその行動をとるかといえば、それはまた別問題だ。
それならば、
「でも、私はちょっと見てみたいけどなー」
「う」
「恋人が見てみたいなっていってるんだから、ちょっとくらい、良いと思うんだけどなー」
「こ、恋人って、それは仮の」
「でも、今日一日は恋人なんだよね?」
「うう……」
一日限定恋人なんてのは口約束だ。だからいくらだって破ることが出来る。だけど、虎子はあくまでそれを忠実に実行しようとしている。その理由は分からない。だけど、利用しない手はないと思う。ちょっと卑怯だけど許してほしい。これも虎子のためなんだ。
やがて、虎子はなにかを諦めるように、
「分かった!つければいいんだろ!つければ!」
認める。その瞬間俺は、
「あ、じゃあ、あのスカートとかも履いてほしいかも」
「追加注文!?」
仕方ないじゃないか。こんな機会、二度とめぐってこないかもしれないんだぞ。虎子に可愛い服を着せられるなんて。
なるほど、これが美咲と虎子が、昨日抱いてた感情か。これは逆らい難いものだ、うん。だって、男勝りの子に、可愛い服を着せられて恥ずかしがるってシチュエーション、すっごい好きだから。しかたないよ。うん。相手が俺なのがちょっと残念だけど。美咲がいればもっと良かったんだけどな。
次回更新は明日(12/1)の0時です。




