闇の住人
現在午前1時23分。視界の先には闇が広る。季節なだけに寒くはなく逆に暑いくらいだ。けれど物音がする度に冷や汗が出るのでプラマイ0ってことで適温だ。いやちょっとマイナスだろうか。いや正直に言おう無茶苦茶マイナスだ。
だって怖いんじゃん!もうさっきからずっと冷や汗出っぱなしだよ!こんな暗いとこに入りたくないよぉ~~~~~~~。
だってさ、こんな暗いと何が出てくんのか分かんないし。路地裏とか、先が徐々に見えなくなっていくから余計にいろいろと想像しちゃうんだよ!
いや、俺だって普段ならこんな時間に一人で外とか出歩かないよ。
それがさ、今日は訳あって唯一の友達とは行けず一人で飲み屋に行くことになっちゃったんだよね。
今『こいつボッチやん』と思った奴いると思うがこれは仕方ないんだよ!
訳を話そう!いや、話させてくれ!
時は少し遡り
ド田舎から上京したてホヤホヤの俺には一緒な大学に進む友達はいない+都会のキラキラとした雰囲気を纏う奴らに気圧されて喋りかけれずスタートで友達を作ることに失敗。
以上の2点のことから俺の夢のキャンパスライフは見事悪夢のキャンパスライフまっしぐらだったのだ。
さすがに『やのべぇのな』と思った俺は必死になって友達を探しまくった。そして見つけたのが純平だった。
純平は俺と同じで一人だった。でも中身は違って俺は寂しがりやのウサギちゃんだったんだけど純平は一人でいたいという狼みたいなやつだった。
出会った時も本とにらめっこで近寄ってくんなオーラ全開だった。しかし焦ってた俺はそれに気づかず話しかけたのだ。
最初は俺が話しかけても本を読むのをやめないクソ失礼な純平だったが、話しかけ続けてるといつからか俺の目を見て話をしてくれるようになったのだ。
そして、そんな奴と今日の放課後事件は起きた。なんと奴と我らが天使は幼馴染みだったという事実が発覚したのだ。
しかもあろうことか奴は己にいつも手を振られていることに気づいていながら、笑顔で振り返えしている俺に対して何も言って来なかったのだ。
天使から特別に手を振られていること事態が罪なのに、奴は俺にわざと恥じをかかせやがったのだ!許せん!
まぁそんな訳があって一人で飲みに来たんだけど俺は誤算をしていた。俺は超怖がりだったってことだ。
いやぁ、まいったね。店の中で寝てて起こされた頃には深夜の一時。俺の住んでるどこか昭和を感じかせるアパートまで約30分程度。しかも俺のアパートって路地裏の突き当たりに在って、そこってば街灯がなくて夜になるとマジもんの真っ暗になる所なんだよな。
こんなことなら家賃ケチルんじゃなかったと心底思ったよ。
芋な俺は都会に暗い場所が在るなんて知らなかったんだよ!!まさに都会の闇ってやつだ。
俺はできることならそんな路地裏に帰えりたくは無かったが、店主からの謎の圧力を背中から感じて半ば強制的に出されて冒頭に至る。
そして俺は今人生最大の葛藤に直面している。家に帰りたいがため、自らの眼前にある路地裏へと入るか。
目を細めても見えかたは変わらない、まさに闇が渦巻くこの路地裏へと入るか否かということに。
途中どっかに泊まればという名案を思いついたのだが、ポケットから取り出した財布がやけに軽く、スリムになっていたので潔くポケットに戻した。野宿も嫌だ。
詰まるところ俺には路地裏へgoするしかないのだ。
俺は胸を大きく膨らませて萎めた後、意を決して闇へと足を踏み入れる。
心なしか空気がひんやりしているように感じる。だからだろうか吐く息の温かさがなんとも心地よい。
その温かさを求めるように俺の拍動は速さを増していく。
―――はぁ、はぁ、あともうちょっとだ。
体が自然とピッチを速くする。
何でこんなに暗い所が苦手なのか自分でも正直よく分からない。けど田舎での暮らしの影響が大きいのだろう。
俺の故郷にも街灯なんてものは無かった、あるのは怪談話だけ。
俺の村では夜に子供が出歩かないようにするために幼いころにたくさんの怪談話をされる。
俺も例に漏れず聞かされてきた。当然村の友達はそんなもん信じちゃいなかったし、俺も信じちゃいなかった。けどあんなことがあってから……。
俺は歩きながら慌てて頭を振る。
やはり闇は嫌いだ。まるで己をも闇に染めてしまいそうで。
しかし……可笑しいな。もうかれこれこの裏路地に入ってから5分以上歩いている。それに怖くて早歩きしているんだ、とっくにアパートについているのが正しい。
だというのに自分はまだアパートについていない。もう何度目かわからない冷や汗が出る。俺は意を決してまわりを見る。暗くてよく見えないが、見覚えのある景色はない。やはり何か可笑しい。例えようのない気持ち悪さを感じる。
そんなことを思った時だった。
俺は何かに躓き転けてしまった。蹴った感触的にその何かは柔らかかった。それに重かった。
「いつつ」
俺は膝の痛みをこらえながら後ろを見る。そして自分が転んだ原因を目を細めて見る。
瞬間、俺は慌てて体を仰け反らせる。そこにあったのは人の体だった。
なんでこんな所に人の体が……。さっ殺人?それとも酔っぱらいが寝ているだけなのか?ダメだ頭が働かない。
でもこれだけは分かる。本能が言っている。「ここから逃げろ」と。
俺は覚束無い足を無理やり立たせる。そして走ろうとするが転ぶ。もう一度立つがやはり転ぶ。ダメだ走れない。
そう思うや否や臆病者の己の手は自分だけでもと、地面に這いつくばる俺を置いていくようにもがく。
その光景は端から見れば無様。まさにそれだ。
「おやおやどうなさいましたか。」
突然後ろから声をかけられた。声は嗄れていて少し高く、言葉遣いからは上品さが窺えた。
たっ助かった!俺以外に誰か人がいる!
そう思った俺は慌てて声のした方へ振り向く。顔はよく見えないがその人は屈んで首を傾げていた。
「たっ助けてくれませんか。こっここなんか可笑しくて!さっきあすこでひっ人が倒れていたんです!何を言ってんだと思われるかも知れませんがおっ俺にも訳がわからなくて!とっとにかく、けっ警察を!」
「……」
男は暫く黙ってこちらを観察しているようだった。
そして先ほどとは声のトーンを一つ下げて男は言った。
「あなたー、まさか人間ですか」
「は?」
質問の意図が理解出来ずつい間抜けな声がでた。しかし、それも納得だろう。この姿形、言葉を見て聞いて人間以外何がありえるというんだ。
「そっそれってどういう…?」
男はこちらの答えなど意にも介さず鼻をすんすんと吸う。
「確かによく嗅げば人間の匂いがしますねぇ…。それにしても妙ですねぇ、人間の匂いが薄すぎますよこの方…」
ぼそぼそと声を発する男の言葉を聞いて情報を増やすがますます意味が分からない。
「まぁ…いいです」
男は呟くのをやめて声を大きくして言った。心なしか口角が上がったような気がした。俺の体の震えが増す。
「あなた《迷い人》ですよねぇ。ならぁ……殺しても構いませんよねぇ。」
その時、空に月が見えた。月明かりに照らされたそいつの顔は笑っていた。その姿はまるで悪魔のようだった。




