第9話
ゲートハウスまで戻ってきた。扉を閉じて南京錠をかける。パイプ椅子に座ってやっと一息ついた。
「ふぅ~なんか疲れたな」
ポケットから小さな魔石をじゃらっと取り出して、洗剤が入っていたビニール袋に入れていく。これは今度登校した時にでも換金しよう。
スマホを取り出して時間を見てみる。ダンジョンに6時間以上潜っていたはずだが、日本標準時では40分くらいしか経っていない。受験生でも連れてきたら喜びそうだな、なんて思って笑ってしまう。そういう風なダンジョン利用は禁止されているが。
軽く伸びをして立ち上がる。
今日はもう帰ろうかな。風呂入って寝よう。まだお昼だけど。
そう思って帰路についた。
週末も終わって電車に乗っている。2時間に1本しか来ないので、これを寝過ごした場合はその日は学校を休むと決めているのだが、今日は起きれてしまったのでこうして電車に揺られている。
周りの人間に見られている。なんならチラチラ私を見ながらヒソヒソ話をしている奴が沢山いる。まぁ慣れっこだ。こうなるまでは話しかけられたりすることも多かったが、今はそうしてくる奴もかなり減った。別に、写真撮ってくれとか言われても普通に笑顔で対応する。有名税ってやつだ。
スマホでweb小説をだらだらと読む。ダンジョンがある世界なだけあって、現実世界(恋愛)カテゴリの小説なのに『彼氏にダンジョンで置き去りにされたので、助けてくれたイケメン探索者に乗り換えます』みたいな題名の話が普通にある。ちなみに今これを読んでいるのだが、結構おもろい。主人公の元彼がざまぁされそうになったタイミングで駅に到着した。
先が気になりながらも電車を降りる。カタルシスを逃してしまったな、なんて思いながら歩いていると同じ制服をきた高校生が増えてくる。しばらく歩いていると高校に着いた。私の通っている県立天ヶ原異能高等学校、まるで漫画の世界みたいな名前の高校である。まぁ漫画の世界なんだけど。ちなみに氷華も蓮夜もここに通ってる。
この高校はとにかく広い。グラウンドが3つあるし、ダンジョンも2つある。あと、なんかコロシアムみたいな感じの、バトルできるとこなんかもある。いかにもです!って感じの高校。ここらに住んでる魔力持ちはここに通わされることになっており、普通の教科もやるが、それに加えて魔力や異能の扱い方、ダンジョンについての知識なんかを学ぶ。
魔力をもっている人間がその扱い方を学び、それによって発現する異能を制御し、人類社会の為に規則に従って扱えるようにするための高校、みたいな感じらしい。まぁあんまり授業にもでてないけど。
下駄箱で靴を履き替える。電車の中ほどではないが、やはり視線を感じる。そのまま自分の教室に向かった。
1年2組、私のクラスだ。後ろの扉が開いていたので静かに教室に入る。「おはよ~」と声を掛けられるので、適当に返事をしながら自分の席についた。
「ライカ、今日はちゃんと起きれたんだ」
氷華が私の前の席の椅子に座って声を掛けてきた。
「うん、なんとなく、来たよ」
「なんとなくって何よ」と薄く笑う。
綺麗な笑顔だ。ストレートに伸ばした青い髪と、クールそうな性格をよく表している切れ長の目には氷のような青く透き通った瞳、ツンと尖った小鼻にふっくらとした唇。完全なる美少女だ。
ちなみに私は適当なポニテだ。適当でも綺麗可愛いからこれでいい。
「ライカ、今日は来たんだ」と、蓮夜もやってきた。
「おいすー」と挨拶する。この高校では珍しく黒髪黒目の少年。普通よりかっこいいけどイケメンすぎないような、でも長身で体はきたえてある。みたいな、そんな少年。で、原作主人公。
「最近、どう?」
蓮夜はそう聞いてきた。
「ん~まぁ普通?寝たり起きたり。あ、あとはあれだ。ダンジョンの間引き、この前からするようになった」
「間引き?」と蓮夜が繰り返してきたので頷く。
「1人で?」
「うん、なんか近所のおっさんがやってたんだけど、腰いわしたらしくてさ」
と言うと、氷華は眉をひそめた。
「危なくないの?」
と聞いてくる。
「よゆーよゆー、浅層しか行ってないし。近所のおっさんができてたくらいだし」
と、心配させないように言っておく。今後は分からないけど。
「でも、何があるか分からないよ?ダンジョンを舐めるなって散々習ったでしょ?」
そう返された。習ってないんだよなぁ。授業あんまでてないし。でも、そんな言葉はよく聞く。
「分かってるって!安全マージンはめっちゃとってるからさ!大丈夫大丈夫」
と笑顔で言う。
「ま、まぁさ、ライカは異能も強力だし、大丈夫なんじゃない?」
と蓮夜がとりなす様に言ってくれた。
でも、ここでそうそう!私の異能強いし!とは返せない。なぜなら、まだ蓮夜には異能が発現していないからだ。豊富な魔力をもっているのに異能が発現していない。
この世界では魔力をもっていれば、ほとんどの人間が遅くても10歳までには異能が発現する。だから蓮夜はかなり珍しいというか、超希少というか、そういうタイプだ。で、異能が使えないから学校で落ちこぼれ扱いされている。バトル漫画世界らしく、校内で普通に異能バトルとかやってるから。検査とか、色々やってるらしいが原因不明とのことだ。
魔力だけだと、身体強化くらいしかできない。それでも魔力持ちじゃない人間からしたら脅威でしかないだろうが、異能持ちはもっと強力だ。例えば身体強化して誰かが正面から向かってきたとしても、私がばーんとするだけで終わりだ。色々策を講じられたら分からないが、それだけ異能は強力ってことだ。
蓮夜は、まぁそういう状況だ。私は、いつか覚醒イベントがきて、無茶苦茶強力な異能が発現することをほとんど確信しているのでそこまで心配していないが、氷華は心配しているし、本人もかなり悩んでいる。原作を憶えていたら、色々とアドバイスできたかもしれないが、もう憶えていないし、そもそも覚醒イベントまで読んでいたかも定かではない。それが本当にあるかすら明確ではないけれど。
「それでも…」
とまだ氷華は心配そうにしているので、彼女の手をそっと両手で包み込む。
「大丈夫。私は絶対大丈夫だから」
と言っておいた。
「本当に?じゃあ無理はしないって約束してくれる?」
「するする!大丈夫!」
と笑顔で頷いておく。
「ほら、もうすぐ予鈴なるし、席もどらないと!」
と言って、2人を自分の席に帰す。
ふぅ~…、間引き程度でこんなに心配されるとは思わなかった。氷華は心配しぃだな。HRを適当に聞き流し、授業が始まる。
1限は数学か。特に真面目に聞く必要性を感じないのでスマホを取り出す。前の席の子の背中に隠れながら、元カレがどんなざまぁを喰らうのか楽しみに、画面をタップした。




