第10話
小説の中では、主人公をダンジョンに置き去りにした元彼が落ちぶれて、ヤケクソでダンジョンに入ってピンチに陥り、主人公カップルに救われてなんやかんやしている。なかなかおもろかった。あとは主人公がイケメンといちゃいちゃするだけだろうから読まなくていいや。
次なる極上のざまぁを求めてサイトの海を漂っていると教師に声をかけられた。
「あ~、分かるやついないのか?じゃあ東堂、お前解いてくれ」
と言われる。何を隠そう東堂雷火が私のフルネームだ。スマホから顔を上げて周囲を見渡すと皆が私を見ている。なんか、ムズい問題を解けるやつ~ってした後、誰も挙手しないから私に当てられたっぽいな。
「は~い」
黒板に向かいながら頭の中で問題を解く。楽勝なイージー問題だ。途中式を適度に端折りながらチョークで解答を書き終えた。教師はうんうんと頷いている。
「流石だな」と言われた。
私がスーパーギフテッド少女(嘘)であることは有名なので、たまにこういう時に当てられたりする。前世が理系大学生で今世でも早くからもう一度勉強をしているので高1程度の問題なら無双できる。
教壇から戻り際に、氷華にウインクすると教室が盛り上がった。
学校では、なるべく明るくするように心がけている。中学の時みたいに腫れ物扱いされるほうがしんどいので、そう振る舞っている。別に本当は辛いんだ!みたいなわけじゃない。もう立ち直ってる、と思う。やる気がでなくなってちょっとテンションがおかしくなったりするだけだ。
適当にweb小説を読み耽っていると昼休みになった。氷華と蓮夜と食堂に向かう。
「腹へった~、何食べよ。オススメある?」
「う~ん、親子丼とか?」
「いいね、それにしようかな」
とか適当に雑談しながら歩いていると、同級生の男子に道を塞がれた。頭の良さそうなメガネ男子、と、その取り巻き。なんか話しかけてきた。
「ライカさん、今日は来てたんだ」
「まぁね」
「ライカさんと氷華さんは、いつまでその出来損ないと一緒にいるつもりだい?」
これ、たまにある。登校するとたま~にある。そしていつも笑いそうになる。芝居がかってるし、馬鹿らしい。
「別に私達が誰と居てもいいでしょ。そこどいて」
と、氷華が冷たく言い放つ。
「そうそう、どいたどいた」と手でシッシと追い払うと、彼らは渋々道を開ける。
「そんなのといると、君達の格まで下がるよ」
とか言われる。鼻で笑ってしまう。
「はいはい、ご忠告どうも」
と答えて食堂へ向かう。異能至上主義の高校とは流石コミック次元、なんて考えていると蓮夜が申し訳無さそうにしている。
「蓮夜、あんな人達のこと気にすること無いから」
と、少し心配そうに氷華が言う。
「うんうん、大丈夫大丈夫。そのうち蓮夜にはすんげー異能が発現するって!」
私も元気づけておく。
「ライカはいつもそう言うよね」
蓮夜は少しだけ笑ってそう言った。そんな事言われても信じられないのだろう。でも、メタ的に考えれば蓮夜は多分最強になるんじゃないだろうか?ここがバトル漫画世界で彼が主人公である以上、その可能性は極めて高いはずだ。
で、さっきのメガネ野郎は、小説の元彼みたいにざまぁされるのだ。まぁまず間違いない。
あー、別に私はこの世界の人間を、なんというかその、人間としてみていない、みたいな?漫画の登場人物としてみている、みたいな?そんなことは全く無い。この世界に生きる人々は皆懸命に生きているし、紛れもなく現実だと思って生きている。
だけど、どうしてもああいう事があると漫画世界だなって思ってしまう。芝居がかってメガネをクイッとしながらああいうことを言われると笑えるし、呆れるし、なんか馬鹿らしくなる。高校に入ったから、多分原作開始したんだろうな~とか思っちゃう。
親子丼をかきこみながら蓮夜の方を見ると、少し元気がない。元々明るい性格の彼は、この高校に入って少しずつ劣等感に苛まれているようにみえる。こんな、異能が使えないからと人を下に見るような価値観なんて馬鹿らしい、ただ無視すればいい。そう言ったこともあるが、それがこの世界のこの高校というコミュニティでは一般的な価値観のため、蓮夜には受け入れられなかった。
「午後は異能実習かぁ…」
蓮夜はそう言ってため息をつく。
どうにかしてあげられないものかな。電気ショックを与えたら発現します、とかなら私でもなんとかできるんだが。
午後の異能実習になった。異能実習だが、魔力の扱い方なんかも講義内容に含まれる。
私の番になった。計測機器を取り付けられて握力計を握る。体内の魔力を一旦不活化させた後、一瞬で活性化させて握力を強化し渾身の力で握り込む。
「…0.34秒、185kg」
ふっ、教官の驚いた顔が気持ちいい。
「東堂、普段から練習しているのか?」
「まぁ、たまに?」
幼少期はかなりやっていた。最近は、まぁたまに。ダンジョンではずっと身体強化しているけど、一瞬で切り替える練習はあんまりしていない。
「そうか。出力も十分だが、立ち上がりが速いな」
褒められたので、あざすと返しておく。握力計を返して取り付けられた機器を外してもらう。列に戻ると氷華が結果の表示されたモニターを見ている。
「ライカ、また強くなってない?」
「そう?」
「前、握力そんなになかったでしょ」
前回の数値なんて憶えていない。そもそも前回はいつだったっけ。でも、魔物を倒して微々たるものだが魔力は増えた。それに伴って身体強化もほんのわずかには強力になっているはずなので、そう言われるとそうかも。
「間引きしたからかな」
「そんなに変わる?」
「さぁ?成長期かも」
適当に答えると、氷華は私の腕を見た。別に太くなってはいない。力こぶを見せつけると、真顔でぷにぷにと押された。
次は蓮夜の番だった。機器を取り付けられ、握力計を持つ。教官の合図で一旦魔力を不活化させる。それから、握った。
「0.28秒、203kg」
やるじゃん。
「如月、いいな。無駄が少ない」
「ありがとうございます」
蓮夜は嬉しそうにそう言った。戻ってきたところで、肘で軽くつついておく。
「蓮夜、やるね~」
「ライカより、これの練習はしてるからね」
「私もちゃんと練習しよ」
握力を鍛えてどうするんだ、みたいな感じはするが、要は魔力をどれだけ素早く扱えるかという話だ。常に身体強化をしておくのは無駄が多い。必要な瞬間に必要なだけ使えれば、その分長く戦える。まぁ私は常にしてるけど。急に殴られたりしたら嫌だし。でも、使い分けられた方がいいのは間違いない。
次は異能の実習だった。グラウンドに出ると、少し離れたところに標的が並んでいる。地面には白い線が引いてあった。ここから撃て、ということだ。教官が説明している間に標的を見る。人の形をした、平べったいやつだ。
異能が発現している人間でも、その内容はバラバラだ。皆が皆、雷とか炎とか氷を出すわけではない。なので課題も何種類かあり、それぞれ指定された場所に分かれて実習する。蓮夜は別の教官に呼ばれて、グラウンドの端へ向かった。あっちには重りやら障害物やらが置いてある。身体強化の練習を続けるのだろう。
さっきより、少し背中が丸く見えた。
「東堂、聞いているか?」
「聞いてます」
聞いてなかった。標的に当てればいいんだよね?
そう思っていたら、単純に当てるだけではなかった。標的の胸に描かれた丸の中に当てる。しかも一体だけ。隣の標的にまで当てると減点らしい。
なるほど。ゴブリンは皆倒せばいいけど、人間相手だとそうもいかないか。私の順番になったので、線の手前に立つ。
手を向ける。いや、これだと分かりやすすぎるんだったな。
手を下ろした。
「どうした?」
「いえ、なんでも」
標的の胸を見る。そこへ無造作に下ろした右手の親指から紫電を放つ。
ばちん、と音がして狙った丸の中に焦げ跡ができる。
「よし。次は隣だ」
同じように撃つ。今度は少し外れた。丸の端っこだ。当たってはいるけど、なんか微妙だな。
三体目には指を向けて撃った。真ん中に当たった。う~む。こっちの方が狙いやすいのは間違いない。
「東堂、二体目だけ少しぶれたな。今の感覚で繰り返してみろ」
「は~い」
でも、指を向けずに当てられるようになりたいんだよなぁ。
残りの標的で練習する。視線だけで狙いを定めて、紫電を放つ。的が動かないので当てるだけなら簡単だが、毎回同じ場所に、となると難しい。
ダンジョンでもやってみよう。こういう標的、買えたりしないかな。
実習が終わるころにはまた結構腹が減っていた。親子丼に素うどんでもプラスしたらよかった。
氷華は着替えに向かい、私はグラウンドの端にいた蓮夜のところへ行った。重りを片付けている。
「蓮夜、おつかれ~」
「おつかれさま」
「握力、負けたわ」
「それ、まだ言ってるの?」
少し笑ってくれた。
「今度、身体強化のコツ教えてよ」
「俺が?」
「うん。私、結構雑にやってるから」
蓮夜は手に持っていた重りを台に戻した。
「ライカの方が色々できるのに?」
「でも、さっき私より速かったじゃん」
それとこれとは別だろう。雷が出せるからといって何もかも上手くなるわけではない。蓮夜は少し考えてから頷いた。
「俺でよければ」
「よろよろ」
これは別に気を遣って言ったわけではない。魔力を節約できれば、その分ダンジョンで遊べるし。氷華に言ったら、また心配されそうだな。でも無理をするつもりはない。楽に戦えるようになりたいだけだ。
とりあえず着替えよう。帰る前に魔石も売らないと。
いずれ最強になるんだろう男の子と並んで、校舎へ戻った。




