第8話
映画やテレビ、CMやモデルなんかもやっていた私は当然超有名だったので、両親が飲酒運転で事故死したことは全国的なニュースになった。
ネットニュースなどには批判的なコメントが溢れていた。私の批判はされていない。両親の批判だ。断片的な報道から、私の置かれていた状況を言い当てるようなコメントまであった。チラッと覗いてみたけど、すぐにブラウザを閉じた。
中学校に行くと完全な腫れ物扱いになった。それまでは、仕事で学校を休みがちだけど、性格は明るい超絶美少女ギャル系有名人として、気軽に話しかけられていた。でも今は、ひたすら気を使われる。蓮夜は私にどう接したらいいのか分からない様子だった。氷華は以前と同じように話しかけてくれたけど、私のほうがどう返していいのか分からなかった。
自然と学校からも足が遠のいた。元々行く意味あるか?といった状態だったしね。
もう何のために頑張ればいいのか分からなくなった私は、すでに決まっていた仕事だけを淡々とこなし、新しい仕事は全部断った。そして仕事を全て終えると前の家から電車で三十分ほどのところにある、おばあちゃんの家に逃げるように引っ越した。距離は近いが、景色はまるで違う。限界集落みたいなど田舎だ。
そうして、今の私の完成である。
二層目も、一層目とたいして変わらない。雑魚が単体で現れなくなっただけだ。
前方から3体のゴブリンが走ってくる。別に言う必要もないが、気分で「ばーん」と言いながら紫電を放つと、先頭の1体がひっくり返った。後ろの2体は光となって消え去る前のそいつに足を引っかけて、仲よく転ぶ。
まとめて倒せるかと思ったけど、そうはいかないか。
起き上がろうとする1体にもう一発。最後の1体は転がったまま棍棒を手放して、這うように逃げ始めた。そんなに必死に逃げられると少し申し訳ない気持ちになるが、これも世の定め。楽にしてやろう。
3体分の魔力が身体に流れ込んでくる。極々、微々たるものだが、分かる。ゲームなら、経験値が入った、という感じだろうか。
しかし、1体ずつ撃つのはちょっと面倒だな。さっきの3体がもう少し近づいてから撃てば、まとめて感電しただろうか。いや、近くにいるだけで勝手に電気は飛んでいってくれない。魔法なんだから、その辺は私がなんとかするべきか。
しばらく進むと、またゴブリンが現れた。今度は2体。手前の1体に狙いを定めつつ、その奥まで紫電を伸ばすように意識する。
放った紫電が、細い線になって2体を貫いた。
ゴブリン達がほぼ同時に倒れる。
「お~、できた」思わず笑顔が浮かぶ。
威力は十分。ただ、奥のやつまで狙おうとすると少し時間がかかる。今回は相手が弱いからいいけど、もっと速いやつに同じことができるかは分からない。
歩きながら何度か指を開いたり閉じたりする。別に指先から撃つ必要はないんだけど、こっちの方が狙いやすい気がするのだ。5本の指からそれぞれ撃っちゃったりするのも楽しいかも。
その後も、2体や3体で現れるゴブリンを倒しながら進んだ。まとめて倒す練習をしていたら、二層目は思ったより早く抜けられた。
三層目では、曲がり角の向こうから棍棒が飛んできた。
「うわっ、っと」
顔を引いて避ける。棍棒は壁にぶつかり、乾いた音を立てて地面に落ちた。
投げたゴブリンと目が合う。そいつは一瞬固まってから、後ろにいた2体を押しのけて逃げようとした。
物を投げる。仲間を押しのけて、逃げる。段々頭が良くなっている様に感じる。
速攻で追いかける。押しのけられて体勢を崩した2匹を纏めて六角棒で薙ぎ払う。手応えを感じたので結果を確認せず、棍棒を投げて素手になったゴブリンをそのまま追いかけ、追いつくと背中から首根っこを捕まえて持ち上げた。
「軽っ」
身体強化を万全にしているのもあるが、それにしても、軽い。
そのまま顔面を壁へ叩きつける。鈍い音がして、ゴブリンが崩れ落ちた。
……ちょっと雑だったな。
手を離して、周囲を確認する。もう動いているものはいない。何となく気持ち悪くてTシャツで手を拭う。意味のないことだと分かっているが。光となったゴブリンの残留物はもうこの世に残っていない。同じ理屈で、魔物は倒せば返り血などもすべて消える。それが、この世界の仕様だ。
身体能力では圧倒している。それでも、曲がり角から飛んできた棍棒は、当たる寸前まで気づかなかった。当たってもたいして痛くなかったかもしれない。でも、目にでも入ったら嫌だ。
雑魚だからって適当に歩くのはよくないな。
それからは曲がり角の手前で足を止め、物音を聞いてから進むようにした。ゴブリン達は隠れているつもりでも結構うるさい。足音がするし、ギャッギャとかなんかゴブリン語喋ってるし。何を言っているかは分からないが、少なくとも待ち伏せ向きではない。
こちらから先に紫電を撃ち込むと、慌てて飛び出してきた。ごめんね。今度は私が先だ。
四層目に入ると、ゴブリンに混じって犬みたいな魔物が出てきた。お馴染み、コボルトくんである。ケモミミとケモ顔と灰色の毛皮に包まれていること以外は外見はゴブリンと大差ない。口がやたらと大きく、可愛い見た目とは言えない。少なくとも、毎日散歩してあげたくなるような愛らしさはない。
そいつは私を見るなり、低い姿勢で走ってきた。速いな。ゴブリンよりは、だいぶ。ぼろぼろの短剣を獣の癖に持っており、刺されると感染症でも起こしそうな見た目だ。
広めに炎を放つと、魔物は横へ跳んだ。炎を見てから避けたというより、私が手を向けた段階で動いたようだ。空振りした火焔が地面をなめる。
「へぇ」
手を向けたのを、なんらかの投射物がくる、と予想して逃げたのかな?なんか一気に頭良くなってないか?
そのまま横から飛びかかってくる。短剣を構えて体ごと刺しにきている、と同時に口を開けて、噛みつこうともしている。
身体をひねって避ける。目の前を通り過ぎる胴体に掌底を放ち、接触した瞬間にスタンガンのように電撃を放った。
魔物が空中でびくりと跳ね、そのまま地面に落ちる。滑ってきた身体を避けて、一歩下がる。
なるほど。手を向ける癖、あんまりよくないかも。
狙いやすいからやっていたけど、何を狙っているか相手にも分かる。これから先も、ずっとゴブリンみたいな相手とは限らない。それでも、どう撃つかを少し変えるだけで結果が変わるのは楽しい。
光となって消えていくコボルトを見ながら色々と考えていると、魔石と共に綺麗な短剣が現れた。拾い上げて観察してみると、明らかにさっきコボルトが持っていた短剣とは違う。
まぁお馴染み。ドロップアイテムである。
ここが現代異能バトルものの世界、と気付いた時に思い出したことは、何度も何度も考えて自分の脳にインプットしてある。その中に、その作品は漫画、ゲーム、映画にもなっている、というものがある。
そしてこれだ。ここはゲーム準拠なのか?漫画?映画?それともそれらが入り混じっているのか?
いかにもレベルアップ的な、魔物を倒すことで増える魔力に、前世からすると冗談のようなドロップアイテム。
今世の人間からしたら当たり前らしい。こちらの人間からしたら、ダンジョンは太古の昔から人類と共存してきた、あって当たり前の存在だ。
まぁいい。ダンジョンを出てから考えよう。鞘もないナイフは、二束三文とよく知られているしょぼいドロップ品だったので、折角の初ドロップだったがそこら辺に捨ててきた。
次に現れた犬の魔物には、わざと手を向けてみた。そいつが横へ跳ぶ。その着地点を狙って、紫電を放つ。
今度は一発だった。よしよし。こういう試行錯誤が楽しい。
そんなことを試しながら歩いていると、お腹が鳴った。スマホで時間を確認する。結構経ってるな。帰る時間も考えないと。
もう少し進んだところで、下へ続く階段を見つけた。
次の階層への階段を前にして少し迷う。体力は万全だけど、どうしよ?ここのダンジョンは10層ごとに転移の間があるので、そこに着くには多分あと5~6時間くらい潜らないといけないだろう。
う~む。飯持ってきてないんだよなぁ。
帰ろ。体力も魔力もまだあるけど、腹減った。
階段に背を向けて来た道を引き返し始める。
次はおにぎりかエナジーバーでも持ってこよう。




