第5話
前世の私は平凡な大学生だった。本当に、どこにでもいる感じの。そこそこの地方国立大の理学部の男。両親共に揃ってるし、兄妹もいた。ちなみに彼女がいたこともある。趣味はギターくらい。それも下手で、人前で演奏できるような腕前じゃない。兄貴が飽きたのをもらって、ちょっとやってるくらい。
で、唐突に歩いてたところに車が突っ込んできて死んだ。多分死んだんだろう。
眠りに落ちたように意識はそこで一旦途切れている。
次に意識を取り戻した時、私は赤子になっていた。産まれてから約1年くらい経ったころに、ほとんど覚醒するように元の自我を取り戻した。
そういう作品を嗜んでいたということもあり、死んで、転生したということはすぐに分かった。最初はパニックに襲われたが段々と落ち着いてきた。
マジか。こんな事が本当に起こるのか。死の後は無ではなかったのか。何者かに感謝する。神か、高次元の存在か、もしくは輪廻転生というものが本当にあったのかは知らないがとにかくほっとする。
周りの景色を観察してみる。古臭い内装だが、現代だ。壁に貼ってあるカレンダーや部屋の内装からおそらく日本であることが分かる。前世の父さんや母さんにまた会えるのかな、という期待が膨らむ。姿形は変わるだろうけれど、俺しか知らないことを言えば信じてもらえるかも。
そんな事を考えていると恐らく、母親であろう若い女性がやってきた。
「ライカ、起きてたの~」と俺の頬をつつきながらニコニコと笑っている。喋っている言葉は日本語だ。ここは日本で間違いないはず、なのだがお母さんの髪の色が赤い。目の色も燃える炎のような赤色だ。すごい美人で似合っているが、違和感がすごい。思わず手を伸ばす。
「どちたの~」
と優しく手を握ってくれる。優しそうな人だ。だけど、その目の色だけが、少し俺の不安を誘った。
結論から言うと、ここは私の元いた世界ではなかった。自分を取り戻してから一ヶ月も経たない内に確信した。たまたま両親が見ていたニュース番組で、キャスターが大真面目にダンジョンがどうのとか言い始めたからだ。
この時はショックが大きかった。赤髪赤目の母さんと金髪の父さん、そして金髪赤目の自分の姿を見た時から、半ば確信していたがやはりそうだった。もう前世の誰にも会うことができないと分かり、大声で泣きじゃくった。
あとは女に産まれていた。これはまぁ、しょうがない。二分の一を外したんだと受け止めた。かといって男とそういうことをできるか、と言われると疑問だが。
それから月日が経って私は5歳になっていた。はっきり言って、普通の5歳児とは全く違う、スーパーギフテッド少女である。
いや、だって今更ひらがなの練習とか、ハサミで紙を点線に沿って切るとか、蝶々結びの練習とかの幼児教育やってらんなかったから。
両親からは教えられた事はすべて一発で覚える天才少女扱いされている。もはや私が既に高校生の勉強をしていても何も驚かないくらいには慣れてくれた。
そしてこの身に宿る異能も鍛えてきた。前世の漫画で得た知識を使って異能の応用方法を探り、魔力の扱いを習熟させる。ちなみに魔力量が増えなかったのはかなり残念だった。魔力の量を増やすには成長する中で自然に増えるか、ダンジョンに行って魔物を倒すしかないらしい。それを聞いた時はまるでゲームだな、と思ったもんだ。
身体能力も同時に鍛えた。走る、跳ぶ、登る、這う、多種多様な動きをして自分自身の体を思い通りに動かせるように目的を持って訓練をしている。意味があるかわからないが両手で箸で豆を掴む練習なんかもした。動体視力を鍛えようと、ヒモに5円玉をくくりつけて木の棒で揺れるそれを切るみたいなこともしてた。
まぁ思いつく限りの努力をしてきたって話だ。
なんでこんなに色々頑張ってるかというと、まぁ一番の理由は転生したから。成人の精神をもって子供時代からやり直せるのに頑張らない奴なんていないわな。二番目の理由は暇だから。で、三番目の理由はダンジョンに行ってみたいから。
ちなみに幼稚園も保育園も行ってない。家でひたすら何かして鍛えていた。
6歳になって小学校に入学した。さすがに小学校はさぼれない。と思っていたが、早々に嫌気が差して図書館通学になった。先生達の前で高等数学を解いたり、英語を喋ることで能力を全力でアピールして、確かにこいつが小学生に混じってもしんどいだろうな、ということを分からせた。
一応体育とか行事にだけ参加して、あとは図書館に籠もっている謎の美少女JSの爆誕だ。
登下校の時のグループで、家の近い男子と女子が一緒になった。2人を紹介された時は衝撃を受けたね。あ~あれじゃん!って。
「如月蓮夜です」
黒髪黒目の普通の男の子。こちらを見て顔を赤くしながらぺこりと頭を下げてくる。
「冷泉氷華…。よろしく」
青髪に氷のように青い目をした女の子。ツンと澄ました態度だ。
「如月、蓮夜…?」
名前に聞き覚えがなんとなくある。そして隣のこの青髪青目の女の子、そして金髪赤目の私。
「あぁーーーーー!」と思わず声をあげてしまった。
いや、ここがダンジョンとかがある世界だって知った時から考慮には入っていた。何かの原作のある世界かもしれないってことは。でも、すっかり忘れていた。そんな漫画あったなって。
現代異能バトル系の漫画の、主人公の幼馴染にいたわ、私。雷と火を扱うから雷火でライカ。あとこの女の子は氷属性で氷華。私って安直なネーミングセンスで名前つけられてるな~とか思ってたけど、虚構の世界なら納得だ。
漫画の題名も、内容もほとんど憶えていない。ゲームとかも出てて、アニメ化もされてたはずだけど、うろ覚えだ。高校の時にちょろっと読んでたけど、大学に入学してからいろいろ忙しくて忘れてた作品だ。
正直、衝撃を受けたね。私って生まれ変わったわけではなくて、脳みそに電極をさされて、漫画をモチーフにした仮想現実にダイブさせられてるんじゃないかって震えたよ。でも、まぁそんな可能性を考えてもしょうがないし、しばらくすると落ち着いた。
原作があるってことはストーリーもあるんだろう。もしかしたら世界の危機なんか起こっちゃうかもしれない。だけど、分からないことを考えてもしょうがない。
そう思って、これまで通りにただ自分を磨くことにした。




