第4話
2日ほど登校して、週末になった。ゲートハウスの鍵を開けて中に入る。登校したついでに街に出ていろいろと買ってきたものをざっと机の上に広げた。まずは芳香剤だ。とりあえず机とトイレに置いてくる。そしてトイレに洗剤をぶっかけておく。あとはシャワールームにカビ落としのスプレーをこれでもかとかけまくる。
とりあえずこんなもんか。一回ダンジョンに入ってみようかな。
週末までにここのダンジョンのことは調べてきた。いわゆる、底無しのタイプだ。時間の流れが現実と違うダンジョン。古くから異界と繋がっていると言われているタイプ。
この世界には数多くの多種多様なダンジョンがあるが、大きくわけて2種類のダンジョンが存在している。一つは現実と同じ時間が流れ、底が存在するダンジョン。そしてもう一つが、現実とは異なる時間が流れ、どこまでも続く底無しのダンジョンだ。底のあるダンジョンには、必ず基底部にコアが存在する。もともとは底無しだったダンジョンから、枝が切り離されるように独立したものだと言われている。
ここのダンジョンはとりわけ時間の流れがひどい。現実と10倍ほどの差がある。調べていて納得した。なぜゲートハウスがこんなに私物化されて生活感にあふれていたのかが分かった。時差をなくしていたのだろう。家に1人、違う時間軸で生きているおっさんがいたらそりゃ家族も嫌がるだろうしね。
「よし。そろそろ行くか」
南京錠を外してかんぬきをスライドさせる。重厚な扉を開けるとゲートの揺らめく光が目に飛び込んでくる。扉を閉め直したあと、ゲート脇に置いてある通信端末に登録証を押し当てて緑色のランプが光ったことを確認する。床に転がしてあった六角棒を拾い上げ、ゲートの光の中に飛び込んだ。
閉じた目にも分かるほどの強い光を一瞬感じて、それが収まったと同時に六角棒を構えながら目を開く。
何もいない。いるわけ無いとは分かってはいたが、少しホッとして息を吐く。六角棒をくるりと回して肩に担いだ。一息ついて辺りを見回す。石造りの壁に囲まれた円形の部屋だ。背後ではゲートが光を放っており、中央では大きなクリスタルが宙に浮いたまま揺れている。そして光源も無いのに何故か明るい。こういうところがいかにも漫画やゲームっぽく感じられるところだ。まぁ、現実ではあるんだけれど。
映像でも、講習でも何度も見たことのある極一般的な転移の間だ。ダンジョンに潜ると一定の深度に達する度に、同じような転移の間が幾つも存在するという。触れることで解放され、転移の間を行き来できるようになる。
中央に進んでクリスタルを触る。浮いているのに、押してもびくともしない。軽く魔力が吸われる感覚がしたので、これで登録完了、といったところか。
よし。んじゃ行くか。どうせ大した魔物はいない。ちなみに格好はいつものTシャツにバスパンだ。あとスニーカー。さすがにサンダルはヤバいかなって。
とてとてと通路をすすんでいくとすぐに第一村人を発見した。
醜悪な顔に小柄の体型。緑がかった肌に尖って伸びたしわしわの鼻と耳。粗末な襤褸を纏って、手には貧弱そうな木の棍棒。中学生でも頑張れば倒せそうな雑魚。ゴブリンである。
一応、肩に担いだ六角棒をぐっと握りしめてみたが、少し考えてやっぱりやめた。手堅く異能で行こう。雑魚にはよく効きそうだし。
こちらに気付いてギャッギャと謎の声を発しながら向かってくるゴブリンに、指をピストルのようにして狙いを付ける。
「ばーん」といいながら魔力を励起する。
紫電が飛び出してゴブリンの体を貫いた。その一撃でゴブリンは倒れ伏すとそのまま淡い光となって消え去る。後には小さな魔石が転がっていた。
ま、こんなもんだ。楽勝楽勝。雷と火という、どこぞのゲームなら範囲狩りが得意な雑魚専みたいな能力だ。一匹相手ならこんなもんよ。
魔石を拾い上げてポケットに突っ込むと、次なる魔物を探して奥へと進む。
2番目の犠牲者が現れたので、六角棒を試してみることにした。まだこちらに気付いていないので、軽く口笛を鳴らしてあげる。極上のメスの存在に気付いた彼が鼻息荒く走って来たところを、六角棒で高速で頭を狙って横薙ぎに振り抜いた。
棍棒をへし折り頭を砕かれたゴブリンが石造りの壁に叩きつけられた後、光となって消滅する。爽快だ。この消滅するシステムが最高だ。ゴブリンの胸を切り開いて魔石を取り出してください、とか言われなくて本当によかった。虚構の世界で助かった。
どんどん奥へと進んでいく。張り合いがなさすぎる。4匹集まった群れを纏めて炎で焼き払う。床で跳ねているスライムを六角棒で叩き潰す。そうして進んでいる内に、次の階層へとたどり着いた。
一息ついてスマホを取り出し日本標準時を確認すると、入ってからまだ5分も経っていない。体感では1時間は潜っていたはずなのに。
「これは…すごいというか不思議だな」
奇妙な感覚だが、面白い。なんとなく笑えてきた。なんで私、こんなど田舎のダンジョンで1人ゴブリンを叩き潰してるんだろって。




