第2話
吉岡さん家のインターフォンを鳴らす。インターフォンといったが、なんというか、ボタンだ。通話できるタイプではないらしい。押してからしばらく待ったが反応がないためボタンを連打していると玄関のドアが開いた。
「うるせえ!一回押したら分かるわ!」
お爺さんとおじさんの間くらいのおっさんだ。
「あ、すみません。反応なかったんで壊れてるのかと思っちゃって」
おっさんは私を頭からつま先までじろっと見てきた。いやらしい視線ではないがなんか値踏みされているようで不快だ。
「お前、あの引きこもりっつー東堂さんとこの孫か」
失礼なやつ。半引きこもりくらいのレベルだ。だが低レベルな言い合いをするのも面倒くさい。愛想笑いを浮かべる。
「ですです。今度から私が間引きしろって言われたんで来ました。書類とか鍵とか、あとは協会から貸与されてる物あったら渡してもらえませんか?」
「ちょっとなんか異能使ってみろ」
私の言葉は無視ですか。っていうか私のこと知らないのかな。ネットはともかくこんなクソ田舎でもテレビくらいはあるだろうに。
「はぁ、まぁいいですよ」
と言っておじさんに向かってピースサインを向けて、体内の魔力を励起する。バチッという音と共に2本の指先の間に紫電が走った。
「放電能力か」
「そです。でもそれだけじゃないですよ~?」
チッチッと人差し指を振る。その指先には赤い炎が揺れている。
「おぉ!?ダブルか!?すげえな!」
すげーだろ。
「これでいいです?んじゃ書類とかお願いします」
「おお、ええよええよ。ちょっと待ってな」
おっさんは家に戻っていった。しばらくヤンキー座りで田んぼを眺めていると書類と鍵をもって出てきた。
「ちょっといろいろ物も置いてあるし、ついて来な」
というとダンジョンの方に歩き出した。「は~い」と大人しくテクテクとついていく。しばらく歩くとダンジョンが見えてきた。魔素計は一番上の緑のランプがついている。まだ、当分は大丈夫ってことだ。
おっさんがコンクリで固められた豆腐みたいな建物の鍵を開け、中に入る。むわっとした熱気がこもっており蒸し暑い。しかもなんていうか臭い。
ど田舎のゲートハウスに初めて入ったがこんな感じなんだ。きょろきょろと建物内を見回してみる。リノリウムの床に打ちっぱなしコンクリートの壁。机とパイプ椅子が3脚。冷蔵庫やソファとテレビなんかもある。銀色の天板の安っぽい流しにはカップ麺が積み重なっているし、机の上の灰皿はタバコで溢れている。明らかにここを私物化しているのがよく分かる。
おっさんはさらに奥の部屋に進んでいく。重厚そうな扉のかんぬきを更に施錠している南京錠を解いてから、かんぬきをスライドさせた。古臭そうなシステムだし、実際古いんだろう。だが堅牢で悪くない、とも思う。
ぎぃ、と音を立てながら扉が開く。部屋の電気は真っ暗だが、奥に鎮座しているものの発光によって内部が見渡せる。
「ゲート…」
こんな、外界から扉2枚挟んだところにあるのか。確かに2番目の扉は分厚かったが、それにしても…。
おっさんがゲート前に散らばった色んなものを回収している。
「ほら、これ。使ってええぞ」
と言って、棒を渡してきた。ずしりと重い、鋼鉄製の棒だ。六角棒というやつか?
「いいんですか?」
「いつからあるかも分からん、もともとここにあったやつだから好きにせえ」
「そすか」
くるりとバトンの様に回してみる。異能で適当にやろうと思ってたけど、これで叩き潰して回るのも楽しそうだ。
必要なものの回収が終わったんだろう。おっさんが「ほれ」と言って鍵を投げてきた。
「んじゃ、あとはここにあるもんは好きにしたらええ。書類とかは机に置いといたから、あと頼むわ。怪我せんように気ぃつけな」
と言うと、すたこらっさっさと出ていった。
「え、マジ?」
これで終わりってマジ?なんかいろいろ説明とかしてくれねえのかよ。ゲート前にはゴミ?みたいなのが散乱している。
とりあえずこの部屋を出よう。ゲートの揺らめく光を見ているとなんていうか、酔いそう。部屋をでてかんぬきをかけ直して南京錠を閉める。しっかりかかっていることを確認して、机の前のパイプ椅子に座った。机に置いてあったリモコンで冷房をつける。
書類が2枚。これは役所に郵送したらいいだろう。あとは予備の鍵だ。郵送して、私がネットで登録したら引き継ぎは終わりかな。
やることはシンプルだ。立ち上がって表の部屋を見回してみる。今は臭いしゴミだらけだが、きちんと片付ければなかなか居心地は良さそうだ。
ここが第二の私の基地だ!みたいな気分になって、なんとなくテンションが上がってきた。




