第1話
猫がお腹に乗ってきて、胸をふみふみしてくるので目が覚めた。窓から差し込む光の加減から大体予測はつくが、一応布団の横に落ちていたスマホを手に取って、時間を確認する。
「11時か~、終わった…まぁいっか」
今日も今日とて学校は休もう。寝転がったままスマホをいじる。メッセージアプリやSNSを開くのが億劫になっているので、適当にネット小説をだらだらと読み漁っていると、玄関のドアが開く音が聞こえた。特に気にせず小説の続きを読み進めていると私室の障子ががらがらと開かれる。
「ライカ!あんたまた寝とったんね!まーた学校さぼってから!」
「いや~ごめんって。起きようとは思ったんだけどさぁ」
おばあちゃんにいつもの言い訳をする。
「あんた、もう学校行くつもりないんね」
「行く気あるある!ないわけないじゃん!」
「別に行きたくないなら無理して行かんでもええけどね。もうお金は十分あるんだし」
大人がそういうこと言ってこないでよ。
「まぁ、そうだけど…さすがに?高校生活送らないのももったいないし?」
「んならちゃんと起きて行かんね」
「わ~ってるって!明日からちゃんと行くから!」
と言うとおばあちゃんは居間の方に去っていった、かと思うと、こちらに引き返してきた。
「あ、そう言えばあんた魔力持ちやろ。今度からここのダンジョンの間引き、お願いね」
「はぁ!?なんで私がそんなんせないけんの!だるっ!前までやってた人おるやろ!その人は!?」
あまりにも突然の言葉につい方言がでてしまう。
「吉岡さんとこの爺さんがやってたんだけどねぇ、腰をいわしとるし、もうしんどいらしいんよ。あんた暇そうやしいけるやろ?」
いけるいけないで言うと、いける。このクソ田舎で多分私が一番適任だろうことは分かってる。けど、気力が…。ダルい。あれこれ考えているとおばあちゃんがまた口を開いた。
「もういい加減いろいろ活動せんね。いつまでも落ち込んどってもつまらんよ」
分かってるって。分かってるけどやる気がでないんだよ。気楽に言ってくれる。
「はぁ~。まぁいいけど?ダンジョンはどうせ遅かれ早かれ行かないといけなかったしね」
高校に入った後に講習も受けてるし、許可証も持ってる。あとは吉岡のジジイとやらから引き継ぎを行って、ネットで申請を出しとけばいいだろう。それがダルいんだが。
よっと仰向けに寝転がった状態から足を丸めるように上に持ってくる。その勢いのまま後ろに転がりながら手をついてバク宙のようにして起き上がった。いえい、とおばあちゃんにピースをすると呆れたような顔をしている。
「そんだけ動けるなら怪我もしんやろ。ダンジョンのこと頼んだよ」
「おけおけ、やるよ。んで、その吉岡さんとやらはどこの家?」
「もう行くんね。別に明日間引きせないかんってわけでもないし、週末とかでもええよ」
「いや~、今行っとかないとやる気がなくなりそうだし?」
なくなりそうと言ったが、絶対なくなる。間引きの担当になったらさすがにやらないといけないからやるが、手続きするまでがクソだるい。
「んじゃ地図見せたげるから居間においで。あと、その格好のまま行くんじゃないよ」
と言って今度こそ居間のほうに歩き去っていった。
ん~と伸びをする。間引きか。前までなら嬉々としてダンジョンに飛び込んでいっただろうけど、今はひたすら面倒くさいな。でも、さすがにか。さすがにそろそろなにかしないととは思っていた。
軽く体を捻ったりしながらぼんやりとした眠気を覚ます。よっしゃ、やるか。
よれよれでしわしわのTシャツを脱ぎ捨てる。下はバスパンだが、まぁこのままでいいかな。タンスをあさってしわしわじゃないTシャツに着替える。長い髪を後ろにくくって靴下を履く。よし、こんなもんでいいっしょ。
全身鏡を確認すると、オーバーサイズのTシャツにバスパンを履いた、とんでもない美少女が映っている。これが私だ。
ポニーテールにまとめた髪はキラキラと輝く黄金の色。勝ち気そうな目は炎のように赤く、化粧もしていないのに長いまつ毛に彩られている。つんとした小鼻と活発そうな唇、毛穴さえ見つからないほどのきめ細やかな白い肌。
背は170センチと高く、胸は…まぁそこそこだ。無くはないけど漫画みたいな胸ではない。いわゆるモデル体型ってやつだ。腰はくびれて足はすらっと長い。
鏡の前で色々とポーズを取る。昔取った杵柄で、人からよく見られるポーズなんてのはお手の物だ。
う~ん、可愛い。いや、綺麗だ。違うな、カッコいい。自画自賛だけど。
シュシュッとファイティングポーズをとってワンツーを決める。天井の電灯からぶら下がったヒモがぷらんぷらんと揺れている。うん、いいね。なにが良いかわかんないが、なんとなく気合が入った。
「うっし、吉岡のジジイとやらのとこ行って、サクッと終わらせるか!」
顔をパンと叩く。
よく分からないうちに決まりかけているダンジョン行きだが、これまでの閉塞感を打ち破る何かを感じた。




