第15話
「そういえばあのゴブリンジェネラルって本来は何落とすの?レアドロ」
『あー僕が剣を仕込んでたやつね!本来は力の腕輪を落とすよ。30%の確率で、効果は腕力が微上昇』
あからさまにゲームっぽい単語が次々と飛び出してくるが、これはこの世界の仕様である。力の腕輪はこの世界に存在する。確か探索者協会で、1~2万で買える。
「へ~んじゃちょっと狙ってみようかな」
10層の転移の間を少し逆走してボス部屋への扉を開くとゴブジェネが振り向いた。
前のように棍棒を振り上げて走ってくる。棍棒を振り下ろそうとしたところで右に飛んで躱し、それを地面に叩きつけて体勢が固まったところに飛び込んで、剣を顔面に横薙ぎに振り抜いた。
ゴブジェネの鼻から上がズバッと切れて転がる。切断面から血が吹き出てちょっとグロい。
「うわ…てか切れ味ヤバ…」
『すごいでしょ!大事にしてね』
「はいよ」
しばらく見ていると魔石と共に金属の輪っかがコロンと現れた。30%を一発で引けたようだ。
『お、おめでとう。よかったね』
「ありがとね」と言って魔石と腕輪を拾う。空いている左手につけて魔力を通すと、アイテムボックスの腕輪のように肌にピタリと吸い付いた。いかにも序盤で手に入りそうな安っぽい無装飾の鉄製の腕輪だが悪くない。
剣を仕舞って軽く手をグーパーする。
「腕力が上がった感じはしないね」
『微上昇だからしょうがないよ』
と言われる。そんなもんか、まぁ無いよりはマシなんだろう。
「じゃ、奥に行くか~」
11層目からはオークが出てきた。豚面にいかつい体。剣や六角棒、異能を使っていろいろと試してみるが一発だ。正直楽勝である。
暇なのでエルヒムと雑談しながら歩く。
『さっき読んだ記憶の中で気になることがあったから聞いていい?』
と聞いてきたので「いいよ」と返す。
『ライカは変わったことを考えるよね。自分の脳に電極を刺されてこの世界の夢?を見せられてるってすごい発想だよ』
「でも、その可能性は否定できないでしょ。否定する事が不可能じゃない?」
『僕は、ライカの魂にアクセスして記憶を読んだから、脳がどうこうされてないってことは分かってるよ』
魂とかあんのか。っていうか分かってない。私の記憶を追体験したというが、完全に読み取れてないな。
「脳に電極を刺されてこの世界の夢を見せられてると仮定して、その中の人物にいかになんと言われたって全て虚構であることには変わりないでしょ」
『うーん、魂が観測できる僕にはその説は受け入れづらいね。そもそもその世界、ライカの前世の世界ね。そこはダンジョンと繋がってると思うよ』
「はぁ?見たなら分かるでしょ。前世でダンジョンなんて存在、見たことも聞いたことも無いよ」
『でも、この世界の物語があったんでしょ?じゃあ、例えばこの世界で未来視的な異能を発現した人が、ダンジョンを通ってライカの前世の世界に行って、その物語を書いた可能性だってあるんじゃない?』
急に説得力のある説を言い出した。前方の曲がり角から現れたオークに紫電を飛ばしながら考える。
『僕の世界にも転生っていう概念はあったよ。でも実際にした人は初めて見たけど。それに、ダンジョンは何が起こるか分からないよ』
そういえば氷華も似たようなことを言ってたな。氷華は危険性、エルヒムは可能性って意味で言ってるけど。
『ダンジョンを通って魂が世界を渡り転生した、なんて、物語の世界に産まれました。よりも有り得そうな話じゃない?』
期待してはいけない。いけないと分かっているけど聞いてしまう。
「じゃあ、もしかしたら前世の家族に会えるかもしれないってこと?」
『その可能性はあると思うよ。前世の世界はダンジョンと繋がりたてで、人知れない山の奥にひっそりと1つだけ存在するのかもしれない。そして、死せる魂がそこを通ってこの世界に来たなら、ダンジョンに深く潜ればライカの前世の世界にたどり着くことができるかもしれない』
仮定に次ぐ仮定。だがあまりにも魅力的すぎる仮定。こいつは私をダンジョンの深淵に引きずり込もうとしている悪魔かなんかじゃないかと思えてくる。
『あはは、そんなのじゃないよ!僕はただ、封印されているだけの無力な少年だよ』
「封印?」
『そうそう。僕の魔法は魂にアクセスしたり、例えば君が今持っている剣みたいに魂を分け与えたり、そういうのが危険な魔法と言われてダンジョンの深部に封印されたんだよね』
こいつの危険性はついさっき実感したとこだ。
「魂にアクセスすることがどうして記憶の読み取りに繋がるわけ?」
『記憶は魂にも保持されているからだよ。脳よりもよっぽどしっかりとね。そして、ライカが転生した時に、今のライカの脳が急に前世の男性の脳と同じ構造になったわけではなくて、恐らく魂からの記憶の逆流によって自我が前世のものに固定化されたんだよ。それが、僕がさっきから前世の世界とこの世界が繋がっている、と言ってる理由。別の世界に魂が移動するなんて、ダンジョンを通ったとしか考えられないからね』
言っている意味は分かる。脳の構造が天文学的確率で前世の自分と同じ構造となって自分の自我が目覚めた、というよりは余程説得力があるような気がしてしまう。
「魂ってどこに存在してるの?心臓?脳?」
『どこか特定の臓器と繋がってるわけじゃないよ。血液や魔力のように身体全体と繋がってるんだ。そして、僕にはその繋がりを通して触れることができる。だから剣に分けた僕の魂から、ライカの魂にも触れられるんだよ』
本当の事を言ってそうだ。信じたいから信じるではなく、なにか説得力がある。少なくとも今適当に設定を考えているとは思えない。
「魂を分け与えるってどういうこと?エルヒムは自分の魂を分割して平気なの?」
前世で読んだ魔法使いはそれをして悲惨な見た目になってたけど。
『あぁ、名前を言ってはいけないあの人みたいにはならないよ。そもそも分割したわけじゃなくて、僕の世界の家畜の魂をストックしてたやつを使ったんだ。そこに僕の記憶を写して、僕の魂と繋いでから剣に入れたの。だから、僕自身の魂を削ったわけじゃないよ』
こいつが封印されてる理由が分かる気がする。なんというか、マッドな匂いがする。
『マッドじゃないよ。なんていうか、そういう魔法が使えるのが不穏に感じるんでしょ?分かるよ。僕はそういう人達に封印されたんだから。でもね、僕も好きでこういう魔法が使えるようになったわけじゃないとは言っておくよ』
人の記憶や心を読み取り、魂を操る、か。不穏極まりないと考えてしまうのはしょうがないだろう。でもこいつはこいつなりに苦労もしてきたんだろう。数百年刺激もなく封印されてるって言ってたし。てか今もこれを聞いてるのか。
『聞いてるよ』
15層を超えて16層への階段を降りる。
「ここから何がでてくるか分かる?」
『わからない、けど数が増える程度じゃない?』
次にでてきたのは大蜘蛛だ。ゲーム的にいうならジャイアントスパイダー。生意気にも巣を張っているので灼き尽くす。
楽勝なので会話に戻る。
「こいつは何を落とすの?」
『スパイダーシルクだよ。服とか作れちゃうやつ』
想像通りのものをありがとう。
『どういたしまして』
「こいつらって魂があるの?光となって消えていくだけで魂はなさそう」
『あるよ。ただ、ライカや僕のとは少し違う。倒したときに身体ごと全部消えてるわけじゃなくて、その一部がライカに流れ込んでるんだよ。魔力が増えるでしょ?』
「それは…えっと、私が魂を喰ってるというか、取り込んでるってこと?」
『そう身構えるようなことじゃないよ。魂が見える僕からしたら普通のことだし、食事と変わらない』
魔力だけを吸収しているのかと思ったがそうじゃなかったらしい。これで私もソウルイーターか。
フフっと笑ってしまう。
『いいね。ライカのそういう明るいというか、ふざけたところ好きだよ』




